真夜中のお姫様

「眠りたくない」

 ぽつりと、わたしは呟いた。

「なんで?」
「だって、朝になったら、またベルはどこかに行っちゃうんでしょう?」

 そう言うと、隣にいるベルは静かに黙りこんだ。沈黙が切なくて、ぎゅっと、ソファの上で膝を抱えこむ。こんなのまるで、子供みたいだ。
 するとベルは覗き込むように顔を近づけると、「寂しい?」と小さい声で尋ねた。少しだけウェーブのかかった金色の綺麗な髪が、きらきらと瞬く。

「……寂しい」

 言葉にすると、もっと寂しくなってしまったような気がした。今ベルは隣にいるのに、明日のことを考えて寂しくなるなんて。めんどくさい、なんて思われたらそっちの方が悲しい。やっぱり言わなければ良かったと思った。
 するとベルはソファから立ち上がると、わたしの背と、膝の裏に腕を伸ばした。そのままぐっと持ち上げられれば、視界がうんと高くなる。

「どこにいくの」

 向かった先は寝室だった。ベルは無言のままそっとわたしをベッドに下ろすと、「入って」と優しい口調で言った。悲しいけれど、それでも眠らなければいけない。渋々とベッドの中に入って座りこめば、ベルもまたベッドへと入り、わたしの隣に座りこむ。

「下向いて」

 向かい合って、言われた通りに下を向く。すると、頭の上になにかが乗せられたような感覚がした。

「ベル……?」
「ししっ」

 ちらりとベルを見てみれば、彼の頭の上にはあの煌びやかなティアラが見つからない。まさかと思い目を見開けば、ベルはわたしの手を握って手の甲にそっとキスを落とした。

「ちょっとだけ貸してやる」
「……え?」
「今からお前がお姫様な」

 眠りたくないなら、朝までずっと隣にいてやる。
 そう言ってベルは緩やかに微笑むと、今度は唇にそっとキスを落とした。


2020.03.12



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