目は口ほどに…(出逢えた幸せSS) | ナノ
■ (1/4)



目は口ほどに物を言う…というけれど、


素直な君の瞳は、いつでも俺に、正直な気持ちを語りかけてくれる。


でも……、


それだけじゃない。


街を一緒に歩いていて、微かに触れ合う指先や、
距離を縮めた肩の温度にも、


今、何を言いたいのか、したいのか、分かってしまう。


だから、人目を気にしながらも、外気で冷え切った指先をそっと握り、
コートのポケットに誘い入れる。


少しだけ俺の目線よりも下で、直くんの顔が、ほんのりと赤くなる。


(ーーいいの?こんな場所で)


ほら、君が今、俺に何を言いたいのか、分かってしまうよ。


だからポケットの中で、絡めた指をキュッと握りしめる。


(ーー大丈夫だよ、誰も見てないから)


そんな俺の気持ちも多分、直くんには伝わっていると思う。


ほら、さっきよりももっと顔が赤くなった。


そんな君を傍で見ている時が本当に幸せで、
俺は自然と頬が緩んでしまうんだ。


毎年の恒例になりつつある、光樹先輩の店で年越しパーティをして、その帰りに寄った近所の神社で初詣。


引いたおみくじは、俺は吉で、直くんは中吉だった。



「おみくじって、良いのは結んで、悪いのは持って帰って、
忘れないようにするのが本当なんだって」



そう言いながら、直くんは読み終わった中吉のおみくじを、
綺麗に折りたたむ。



「中吉なら、悪くないんじゃないの?」



「うん、でも、ちょっと反省しないといけないことが書いてあったからさ」



そう言いながら、綺麗に折りたたんだおみくじを、無造作にジーンズの後ろポケットに押し込むところが、直くんらしい。



「反省しないといけない事って?」



「俺、物をすぐ失くすの。ちゃんと整理整頓しろって書いてあったのと……」



直くんの応えに、苦笑しながら、「それと?」と訊き返す。



「恋愛、我が儘が過ぎると、失くすって……」



そう言いながら、寒さで悴んだ指を温めるように擦り合わせている。


俺は笑いながら、その手を両手で包んで、息を吹きかけた。


白い息がふわりと広がると、直くんは少し驚いたように、大きな目をもっと大きく見開いて、すぐ真っ赤に頬を染める。



ーー可愛いな。



「直くんは、ワガママなんかじゃないよ」



悴んだ手を引き寄せて、またコートのポケットの中へ誘って、そのまま歩き出すと、



「と、透さんっ」



俺に引っ張られて直くんが、少し小走りに従いてくる。



「ほら早く、帰るよ」



「え?初日の出まで待たないの?」



「初日の出なら、部屋からでも見れるよ」



直くんの少し焦ったような表情に、俺は笑いかけた。



直くんは、今年の3月で21歳になる。


4月からは、大学4年だ。


出逢った頃は、まだ18歳だった直くんは、背も少し伸びて、体格もあの頃よりは逞しくなった。


ヤンチャで、無鉄砲なところがあったけど、そういうところが薄らいで、子供っぽさが抜けてきたと思う。


就職活動も、本格的にやらなければいけない時期が訪れて、誰しも将来を考えて、少しずつ心が成長してくる。


最近の直くんは、自分が心配するほど、ワガママなんかじゃなくて、


どちらかと言えば、俺に少し遠慮をするような態度を取るようになってきた。


例えば、俺の仕事が忙しい時、前も我慢しようとしてくれているのは、分かっていたけれど。


それでも俺が、大丈夫だからと言えば、満面の笑みで『え?ホント?いいの?!』と、手放しで喜んでくれていた。


だけど最近は、それが少し変わってきた。


俺のことを思ってくれているのは、態度から分かり過ぎるくらい分かるんだけど。


ーー少し寂しい。


そんなことを思ってしまう俺の方が、よっぽどワガママなのかもしれない。




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【clap】
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