聞いてるのがいやになるほどの暴言がやんだのは、食堂の扉が開いて、入ってきた人を暴言を上げてる人が見た時だ。

「――シン、さん……」

 入ってきたのは、シンさんや、ユイたち。
 つまり、生徒会メンバー全員だった。

 皆はそのまま、静まった食堂の中を突き進む。

 僕はそれを、なにかわけのわからない不安に襲われながら、ただ見ているだけ。


 どうしてこんなにもいやな予感がするの。

「あ! 潤っ、ご飯食べに来たのかっ?」

「はい」

 にこやかに返事をするトキさん。

 そんなトキさんに反応するみたいに、ケイさんもヨシさんも、ユイも空に話しかける。

 それと同時に、大きくなっていく不安。

「あは、君が編入生くん? 俺は会計の西圭介だよー。よろしくね〜」

「おう! 俺はあき……村上空っていうんだっ、空って呼べよ! 圭介!」

 ……え? 村上、空……?

 僕は空が口にした自分の名前を聞いて、思わず目を見開いた。

 村上って言うのは僕の母の旧姓。……どうして空はわざわざ村上を名乗ってるの?

 困惑する僕を余所に、皆と空の会話は続く。

 大きな背を屈めて、ヨシさんが空に話しかけた。

「……犬崎、吉乃。……書記」

 僕は理解することができなかった、ヨシさんの言葉に、空は、「おう! よろしくな吉乃!」と元気よく声を上げた。 ヨシさんの自己紹介がわかったみたい。

 ……やっぱり空はすごいや。僕は自分ができなかったことを容易くできてしまう空に、眉を下げた。

 ……自分よりはるかにすごいからって、弟に嫉妬するなんて、ほんと僕って最低。兄失格だよね。

 落ち込む僕の耳に、今度はユイの声が聞こえた。

「俺は生徒会補佐をしてる、猫田結紀だ。まあよろしくな」

「よろしく! 結紀も、俺のことは空って呼べよ!」

「ああ。……と、なんだ?」

「結紀って見た目すごい可愛いけど、しゃべり方は男らしいんだな!」

 ユイのことをじっと見つめる空に、ユイが不思議そうな顔をして問いかける。

 そうすると、口だけしか見えないけどにっこりと笑って声を上げる空。

 ……それはまるで前に僕がユイに言った言葉みたいだった。


 おこがましいけど、そう思ったんだ。

 でも、そう思ったのは僕だけじゃなかったみたい。

 ユイは空に笑みを向け、懐かしいあのお兄ちゃんみたいな表情で言った。

「おもしれぇやつだな、お前。……まるで、あいつみてぇだ」

 ぼそりと最後になにを呟いたかは聞き取れなかった。

 ……僕はユイの言葉に、正直ショックを受けていた。

 だって、その言葉は、僕にユイが言ってくれた言葉と同じで。

「……っ」

 僕はこの時、自分の不安がなんなのか、ようやくわかった。

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