う、うそ、椿が前に言ってた姿の子がいる。

 ……ほんとにぼさぼさの髪と、大きな眼鏡で顔がほとんど見えない。

 ということは、この子が王道っていう編入生なのかなぁ?

 広い食堂にびっくりして大声を上げ続けるその子を見て、僕は首を傾げた。
 よく見ると、その子の隣には、黒髪の普通の子と、確か一年ですごく人気のある、進藤洋和くんがいた。

 進藤くんは、自分といることで編入生の子に罵声を浴びせる周りを睨みつけていて、でも、なぜか普通の子は表情を引きつらせ、青ざめてるように見える。

 どうしたのかな? と思ったんだけど、気づかないのか、編入生の子は、その子の手を勢いよく引っ張ってまた大きな声で話し始めた。

「すっごいむだ遣いだなっ」

「――え……?」

 その子がしゃべった瞬間、その声は僕の心を貫いた。

 だって、この声は……。

「あ、あの……でも、一流の子息が通ってる、から、その……」

「だからなんだよっ、金持ちだからって、そういうところでむだ遣いするの、よくないだろ! だから泉水はだめなんだぞ!?」

「ぁ……ご、ごめん」

 びくりと身を縮こませる黒髪の子も、その子を睨みつける進藤くんも目には入ってこなかった。

 僕の目に映るのは、編入生の子だけで。

「……最悪、アンチじゃん」

 だから、隣で、椿が、悔しそうに、忌々しそうに呟いてるのも耳には入らない。

「――そら……どうして?」

 その声の主は、間違いなく空だ。

 全然似てなくても双子である僕が、空の声を聞き間違えるはずがない。

「……なんで」

 かすかに震える声で、呆然と呟いた。

 ここなら、この学園でなら、空に劣等感を抱くことなく過ごせると思ってたのに、どうしてここにいるの……?

 僕は目を見開いたまま編入生……空を見つめた。

 呆然とする中、空たちはそのまま食堂を突っ切って空いてる席へと座る。

 それでも僕は空を見つめたまま。

 空は、周りからの暴言を気にすることなく、進藤くんに頼み方を聞いたのか、料理を注文していた。

 こんな中でも注文できる空はすごいと思ったけど、普通の子……さっき空が泉水って言ってた子は、やっぱりすごく青ざめてる。

 でも僕は空を見てるうちに、なにかいつもの空とちょっとだけ違うと思った。
 だって、いつもの空なら、近くに表情が暗い子がいたら、「そんな暗い顔、俺の前ですんなよなっ!」ってすごい怒るはずだから。

 僕は昔からそのせいでいつも空に怒られてたんだ。

 僕みたいな暗いやつが近くにいたら、いくら明るくて人気者の空でもいやになるに決まってるよね。

「……巻き込まれ、か」

「……え?」

「ううん。なんでもないよぉ。ただ、実際に見ると、ほんとに最悪だと思っただけだからぁ」

 ぽつりと呟いた椿に聞き返した。でも椿は曖昧な返事をして、眉をひそめるだけ。

 運ばれてきた料理を、空たちが食べる中、暴言は食堂に響き続けた。

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