2
ふわふわ卵のオムライスが僕の前に置いてあり、そこからいい匂いが漂っていた。
すごくおいしそう。
僕が促したことで椿も料理を食べ始めていた。
椿は僕とは違ってすごく料理を食べるのが早いから、三品あっても、食べ終わるのは僕より少し早いくらい。
僕も椿も食事中はしゃべらないタイプだから、静かに夕食は終わった。
「ふう、おいしかったね」
「ふふ、あたりまえだよぉ。なんたって一流の料理人が作ってるんだからぁ、しかもあのウェイターさんの攻めが! あらゆる意味でおいしいに決まってるでしょ」
「せ、攻め……?」
また椿の話によく出てくる言葉。
いつもと同じようにどういう意味? と尋ねようとしたら、食堂に歓声が響いた。
それを聞いた椿も叫んでるから、耳がすごく痛い。
「来たーっ! 生徒会だぁ!」
「生徒、会……?」
「うん! まさかこんな時間に来るなんてっ、すごい珍しくない?」
「……うん、そうだ、ね」
「……海?」
名前を呼ばれたのに気づかなかった。
僕の目は食堂の入口に立っている生徒会の人々、つまりシンさんたちにくぎづけ。
この時間になら来ないはずなのに、なんで今日に限ってこの時間帯なんだろう。
シンさんたちを見ると、自分勝手だけどすごく胸が痛いんだ。
いやがられるなんてことわかってるけど、会いたくて仕方がない。
また話がしたくて仕方がない。
僕は感情を頑張って押しこめながら、ずっとシンさんを見つめていた。
それを椿がなにかを考えるみたいに見ていたことにも気づかないで。
シンさんたちはそのまま食堂を進んで、生徒会専用のスペースに入っていった。
僕はその姿が食堂から消えてもしばらくの間ずっと見続けていた。
そんな自分が未練たらしくていやになる。
空だったらきっとなんの気負いもなく話しかけに行くんだろうけど、僕にはやっぱりできない。
それ以前に、空なら後悔するような生き方をしないから、もしも空だったら……なんてことは当てはまらないかもしれない。
僕は後悔だらけだ。嘘をつかないとシンさんたちと会えなかったと思うのに、嘘をついたことを後悔してる。
矛盾だらけな考えしかできない自分自身がいやだった。
「――海、帰ろうか」
落ち込み始めた僕に、椿がやさしく声をかける。
椿は頭がいいから、なにかに感づいているのかもしれない。でも詳しく聞いてこない椿。
そのやさしさに縋ることしかできない僕は、本当に最低だ。
僕は椿に小さく頷き、二人で騒がしい食堂を後にした。
- 51 -
[*前] | [次#]
(6/32)
←戻る