「海ぃ、これ、きっとっていうかもう絶対! 絶対、僕の妄想じゃないから。あんなに書記×天然爽やかのフラグ立ってるんだよぉ? どう考えても嫉妬するでしょ」

 だって攻めだもん、伊鶴のことが好きだもん、と当然のように言われるんだけど、その椿のセリフにたまに出てくるフラグってなに、攻めって? とまた疑問が湧き上がってしまった。

 や、やっぱり椿の考えすぎなんじゃないのかな……そう思ったけど、「そ、そうなの?」とだけ口にする。

「そうだよぉ! ほら、見てて」

「え? あ……吉乃さん」

 自信満々の椿に促されて、また伊鶴くんのほうに視線を向ければ、そこに吉乃さんもいた。吉乃さん、二人三脚出場だったっけ……?

「なに話してるんだろう……」

「わかんなぁい。でも、さりげなく伊鶴の肩触ったり、伊鶴の組む相手見てるあたり、牽制してると見た!」

 遠くて本当ななにを言っているのかはわからないけれど、椿がそういうから、ほんとにそうなんじゃないのかって思えてきた。よ、吉乃さん……伊鶴くんのこと、好きだった、の? ほんとに……? 伊鶴くんは知ってるのかな?

 遠目でもわかるほどにこやかに対応している伊鶴くんを見る以上、知らないんだろうなぁと勝手に思った。

 いや、そもそも、吉乃さんから伊鶴くんへのベクトルは、僕らの勝手な想像にすぎないから、本当のところはどうなのかわからないんだけれど。

「ふふ〜、楽しくなりそ」

「――なにがだ」

「なにがって、それは伊鶴と……!? な、結紀!? なんでいるのさ! ここ、僕らの組の陣地だよぉ!?」

「あ? いいだろうが、別に」

 よくないよ! と真っ赤になった椿が騒いでいる声で、周りから視線が集中してしまう。つ、椿……。

 あんまりこういう視線が好きじゃない僕は、「あ、椿」と声をかけて静まってもらおうと思ったんだけど、その前に結紀が行動を起こしていた。


「――ちっ、うるせぇなァ。黙れ」

 そう眉間にしわを寄せながら、椿を睨みつけた結紀が、椿に近づいて――って、あ、あれ?

「見なくていい」

「新さん……?」

「ああ。競技まだ始まんねえから、会いに来た。今朝忙しくて会えなかっただろ?」

「! はい……」

 目をふさがれて、びくっと身体を弾ませてしまった僕は、その正体が新さんの手のひらだって知ってほっと息を吐く。新さんの言うとおり、今朝は僕も新さんも忙しくて会えなかったから、今こうして新さんが会いに来てくれて……すごく嬉しかった。えへへ。

 でも、返事をしながら椿たちのほうをちらっと見たら、椿が真っ赤になりながら放心していた。
 結紀はそのすぐ前でニヒルに笑っているし。周りのクラスメイトは気まずそうに視線を逸らしてるし……いったい新さんに目の前をおおわれている間になにがあったんだろう。

 そう疑問には思ったものの、「どうした?」と微笑んでいる新さんに聞くことでもないかなぁって。後で覚えてたら椿に直接聞けばいいもんね。

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