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だって、もしも僕があんなにたくさんの人がいる目の前であんなふうに言われたとしたらきっともう人前に出られない! っていうくらい恥ずかしいはずだもの!
もし僕が椿と同じ立場だったら……って想像するだけで顔から湯気が出ちゃうよ。
ぱっと頬を両手で包む僕の横で、それまで黙っていた伊鶴くんが口を開いた。
「猫田は椿が好きだったんだな〜。椿は猫田が好きなのか?」
「えっ、ちょ、伊鶴くん!?」
まさかそんなことを聞くとは思わなくて、僕は目を見開いてしまう。
さっき同じ気持ちだって思ったけど、実は違っていたの……?
もしかして、同じ気になるでも僕の気になるっていうのとは違って、伊鶴くんは椿が結紀のことを好きなのか気になっていたの……?
疑問点がなんとも伊鶴くんらしくて、場違いだとは思いつつも微笑まずにはいられなかった。なんだか毒気が抜かれたっていうか。
それは椿も一緒なのか、それまでの慌てようが嘘みたいに脱力してる。あまりの直球さになにも言えなくなったっていうのもあるかもしれない。
「? どうしたんだよ、二人とも?」
「なんでもないよぉ……」
「そうか! で? 椿は、猫田が好きじゃないから、困ってるのか?」
首を傾げた伊鶴くんの問いかけに、口を開こうとした椿だけど、開いた口から言葉が出ることはなかった。
「椿?」
もごもごと口を開閉する椿の名を呼んでみた僕に、一瞥だけ送った椿は、すぐにうつむいてしまう。そんな椿が言葉を発するまで待っていたら……。
「――わ、かんない」
「へ?」
いったい、どういうこと?
「……好きとか、そんなの、考えたことなかったから、それで困ってるのかどうか……わ、わかんないの」
「わかんない……?」
「だ、だって、結紀のこと、そんなふうに好きだなんて考えたことなかったもん! だ、だからこの間から……っ!」
この間……って、やっぱり変になってた原因は結紀なんだ。
顔を真っ赤にしたままうつむいちゃった椿に、僕はそう確信した。きっと、僕が知らないときに、結紀と椿の間になにかがあったんだと思う。それがいったいなんなのかは、聞いていいのかわからないから、聞けないんだけど。
でも、椿だったら、こういう時どうするのかなって考えたら、自然と口が開いていた。だってきっと、椿だったら、声をかけてくれると思うんだ。
「――い、いやじゃ、ないんだよ、ね? 好きって、言われて、いやなわけじゃないの?」
「え?」
「ちょっと違うかもしれないけど、新さんが、言ってたんだ。友達だったとしても、同性からキスをされたらやなはずだ、って」
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