自分と重ねて


 始業式から一週間が経って、あと一週間もすれば体育祭当日。

 日に日に緊張が増していくんだけど、ここ最近すごく気になることができちゃったんだ。それは、椿のこと……。


 なんだか、昨日今日椿の様子がおかしいんだ。

 静かだって思うと、次の瞬間なにかを思い出すようにして、「ひゃわ!」と顔を真っ赤にして声を上げたり。

 どうしたのって聞いても、「な、なっ、なんでもっ、ないよぉ!」ってびっくりするほど首を左右に振ったり。……正直その反応でなにかあったんだなってわかっちゃうよね。首、取れちゃいそうだよ椿。

 でも、その反面ちょっと安心したことだってあるんだ。

 それまでの椿は、なんだか思いつめてる感じだったけど今は、思いつめてるって言うより、恥ずかしい? っていう感じだから。

 まあ、どっちにしろなにかしら悩んでるのは間違いないんだけど。


 そして、そんな疑問は解消されたわけじゃないんだけど、原因がなんとなくわかることが起こった。


 ――な、なんと、生徒さんがたくさんいる食堂で、結紀が、「夏川椿は俺の物だから。手ぇ出したらぶっ殺す」って宣言しちゃったんだ。

 それが、今、目の前で起こったことなんだけど……。

 顔を真っ赤にして、「ちっ、違うもん!」って声を上げた椿に、「まだ、だろ? すぐに俺のもんになるから問題ねえよ」ってにやりと笑った結紀。

「っ! う、海! 伊鶴っ、か、帰ろうっ!」

 そんな結紀に耐え切れなくなったのか目を潤ませた椿に引っ張られ、僕と伊鶴くんは部屋まで走った。

 食堂を出るときに目に入った生徒さんはびっくりした顔をしていたんだけど、ちらりと後ろを見たときに見えた結紀の顔は、満足げ気に笑っていた。


「――はあ、っ、はあ」

「はっ、ふう、ふ……つ、椿……」

「は、はあ、つばき」

 部屋に入り、息を整えつつ、僕らの腕をつかんだままの椿の背中に声をかける。椿は、僕らが息を整え切った時もまだ息を切らしていて、心配になった。

 それでも数秒黙っていると、椿のほうから小さな声で、「ごめんね」というつぶやきが聞こえてきた。

「え?」

「……二人のこと、連れてきちゃって、ごめんねぇ。まだご飯、食べてなかったのにぃ」

「い、いいよ! そんなことはっ。ご飯は僕が作るし」

 本当にご飯のことはそんなに気にしてないんだ。

 伊鶴くんも頷いているし、同じ気持ちなんだと思う。僕らが気になってるのはもちろん椿のことだよ。

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