部屋でのひと時
……おい、この野郎、一体なんのつもりなんだ。ああ?
俺は、俺のひざの上に勝手に頭を乗せる日暮に、青筋が走ったのを感じた。つうか重いんだよ! 自分の体格を考えろバカ!
ぎりっと日暮の頭部を睨みつけながら、俺はやつをどかそうと頭を強く押す。う、動かねえ。
「動くんじゃねぇよォ、夜」
「あ? ふざけんな! なに勝手にひざまくらとか寒いことさせてんだよ」
がっちりと腰にまわされた……認めたくねえけど太くたくましい腕のせいで、身動きができない俺は、ひたすらに毒づくしかねえ。
ただ、いつものように俺の部屋に勝手に来た日暮が横にいるのを感じながらぼうっとテレビを見ていただけなのに、どうしてこうなった……!
ソファーに座っていた俺が感じた、突然の重みと違和感。
普通思わねえだろう、男の俺が、男の日暮をひざまくらなんてさ。男としてどうなんだっつうの。
……いや、まあやつは俺の恋人でもあるけどな。それとこれとはまた別だ。
「たまにはいいだろうがァ。……少しだけ、動くんじゃねえ」
日暮はそう言うと、俺の腰にまわしている腕に力を込め、足に頬づりをする。
すりすりと甘えるようなそのしぐさに、俺はなにも言えなくなる。
……なんか可愛いとか思ってしまった自分は時空の彼方に消し去るとして。
なんだか自分に負けたような気がした俺はがっくりと息をつき、相変わらず腰に力を込めてる日暮の頭の上に手を置く。
――そして、思いっきり叩いた。
「ってぇ、なにすんだよォ」
「あ? なに、じゃねえっつうの。痛いんだよ! もっと力弱めろ」
てめえは俺の腰を粉々にするつもりかクソが!
潰れるっつうの!
ぎりぎり力込められれば、さすがに痛くて訴える俺。
……そんな俺をどこか深い闇をたたえたような瞳で見上げてくる日暮。
……あー、もう、仕方ねえなぁ。
俺は一つため息をつくと、さっきは日暮の頭を叩いた手で、今度はやつの髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
俺が逃げようとすると、いつもこうなるから、日暮のこんな反応には正直慣れている。もちろん、その後の対処法も。
だてにこいつに捕まるのを諦めたわけじゃねえんだぜ?
「んな顔すんな。……逃げねえから」
「……」
そう呟くと、無言で力を緩める日暮。
まあそれでも力が強いことには変わりねえんだけどな。
逃がさない、離さない。
そう言っているような日暮の視線と、腰に回る腕に耐えきれず笑みが浮かんだ俺は、たまにはこういうのもいいか……なんて思って、そのまま日暮の気が済むまでそうさせてやった。
ま、諦めが肝心ってことで。
「――って、ちょっと待ててめえ! どさくさにまぎれてなにしてやがるっ」
言うまでもなく押し倒された俺は、もう少し諦めなきゃよかった、とか今さらなことを考えた。
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