何も求めない

「中学生活を終えることをどう思う」
「私は柳みたいに部活に打ち込んだりしてるわけではないから、なんともなあ……」
 二年の後期に一度生徒会に入って、でもやってみると結構億劫なものなんだなと感じて三年生は前後期共に図書委員会に入った。一週間に一回当番が回ってくるだけの楽なものだ。それに利用者が多いわけじゃないから、当番中も自分の読みたい本が読める。
 しかし後期になってから当番の曜日が変更されて、柳と同じになってしまったときは思わず頭を抱えそうになった。丸井なんか比べ物にならないくらいこっちのほうが厄介だ。図書室の中だから決して大きな声ではない。けれどもいちいち核心を突く発言は非常に鬱陶しいし放っておいてほしかった。
「そうじゃない。お前は外部進学だろう」
「受かればね」
「受からないと考えているのか?」
「そりゃ目の前に塾にも行かないでとんでもない成績取る天才様がいるんだから、ちょっとは自信喪失もするよ」
「他人より多少伸び幅が大きいだけで、天才ではないさ」
 そういう言い方もできなくはないが、そもそも伸び幅が大きいこと自体が羨むべきことではないかと思う。
 柳はたぶん、私のことがあまり好きではないのだ。受動的でものごとを悲観的にとらえるネガティヴな性格、勉強だけして特に面白い人間でも何でもない。それでもって自分のことをこんな風に卑下するところだってまた、癪に障るのだろう。
 じゃあどうしろっていうのか。
「わたしは柳みたいに頭がいいわけじゃないもの。人に言われたとおり勉強して、人が言ったように進学するだけだよ」
 柳は細い目を少し和らげて笑った。 「そういうところが気に食わないんだと、何度言えば分かるんだろうな」
 昼ご飯に食べたホイップクリームパンが予想以上にボリュームがあって、5時間目が始まって早々に胸焼けがしてきた。昼休みであったならば、それを言い訳に図書委員を休めたのに。何だってあんな言われ方をしなければならないんだとむかむかする。
「どしたの、なまえ。不機嫌じゃん」
「あー、かどちん……。私ってそんな嫌な性格?」
 藪から棒に何だ、と無二の友人は目を丸くした。確かに私もかどちんに、いきなりそんなことを聞かれたら戸惑うと思う。しかし結構真剣に悩んでいて、もしほかの人にも「嫌な奴」とか言われてたりしたらどうしようかと考えてしまう。
 元々交友関係の狭い私には、何でも正直に聞けてしまう友人はかどちんしかいなかった。男子とは話す機会なんて、それこそ皮肉なことに委員会くらいしかなかった。
「誰かにそんなこと言われたの?」
「ううん、そういうわけじゃないけど。もしそう思われてるなら改善しないといけないから」
 英語の教師は適当な性格をしている。授業はそれなりに賑やかな話し声で掻き消されていて、私たちの会話もそう遠くまで届くようなトーンではなかった。ふと先日の出来事を思い出し、視線を丸井の方向に飛ばすと、眠いのかうつらうつらと首が上下していた。これも見慣れた光景だけど、外部へ進学すれば二度と目にはしないだろう。
「そうだなあ……。なまえは頭いいけど、イヤミな感じではないと思うよ」
「ほんと?ならいいんだけど」
 かどちんはウソをつくのが下手くそだ。私もあんまり上手ではないけどそれに輪をかけて下手なので、一発で分かる。だからこそ何でも相談できるっていうのもある。彼女の答えに安心して、やっぱりあれは柳のあてつけだったんだな、と思い直した。

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