風はあわいろ

「さっむ」
 1月の気温が部屋でぬくぬくしていた体を容赦なく凍らせる。太陽は長期休暇を貰ったらしくしばらく曇りが続いていた。
 勉強勉強勉強、とひたすらに机に向かう生活も長くにわたるが、今日はどうしても気分が乗らないから、コンビニ行ってくるという陳腐な嘘で親を誤魔化して外へ出た。
 しかし玄関のポーチを飛び出してすぐに、どこのコンビニとは指定していないのだからちょっと遠くへ行ったっていいだろう、と屁理屈が頭を離れなくなって、中学校の近くのコンビニまで散歩することにした。片道20分弱といったところで、朝の目覚ましにはぴったりだと思われた。
 けど、こんなに寒いとは考えてなかった。
 マフラーはリビングのハンガーにかけっぱなしで、一昨日使ってカチカチに固まったカイロがポケットの中で存在を主張している。しかたなしに私はポケットへ手を突っ込んだ。顔面から転んだらそのときはそのときだ。
 丸裸になった木々が並ぶ街路は目の癒しというものが少ない。せいぜい低いところにもじゃもじゃ繁茂している雑草くらい。大都会というわけではないけれど、国道にはこの早朝からそれなりに車が走っていて道は排気ガスのにおいがした。慣れっこだった。
 ふと、地味な色彩の町並みで、やけに目立つ赤色を捉えた。そんなに強くない風に真っ赤な髪がふうわふうわと揺れている。
「みょうじ?」
 近寄ってきて、私の名前を呼んだ。聞こえなかった、見なかったふりをすることも考えたものの、やっぱりそれはできなくて振り向いた。
「丸井。朝から、ランニング?」
「おう。部活引退したけど、やっぱ体動かさねえと落ち着かないしさ」
 うちの学校のものではない、有名なスポーツブランドの真っ白なジャージを着ていた。運動していると寒さを感じないからか、ズボンの裾を捲っていた。
 私は体育は苦手だ。運動だってできるなら避けて通りたいし正直体育なんて一番いらない教科だ!とも思っている。だから丸井みたいに運動が好きで、放課後や空いた時間も運動にいそしんでいて、というタイプにはほんの少しの嫉妬と、憧れを感じる。
「お前はどうしたんだよ、散歩か?家この近くだったっけ?」
「うん、そんな感じ。それなりに近いし、気分転換にいいと思って」
 私の言葉に何か思い当たることがあったらしく、丸井はこてん、と女子のように首をかしげて、それからああ、と一人で勝手に頷いた。
「外部の高校受けるんだっけ、みょうじ。門倉とかめっちゃ騒いでたぜ。なまえがS高受ける!応援しろよ!とかつって」
 悪戯っ子的な笑みを浮かべた丸井の物マネは結構似ていた。友人のかどちんこと門倉はものごとを大袈裟に話すことが大好きで、私が外部の受験を決めたときも3割くらい盛ってみんなに伝えたものだからものすごく焦った。
 立海に入る子はたいてい高校までエスカレートだ。私がそうしなかったのは、思った以上に成績が伸びて、親や先生がこのままではもったいない、とか、親切心を働かせたせい。本当はどこの高校にしたって良かった。将来やりたいことなんて全然わからないし見つかる気配もなかった。
 そのあいまいな選択が、今になって私を苦しめている。
 私の雰囲気が少し暗いものになったことに気づいたらしく、丸井は口を閉ざした。少し身長の低い私に目線を合わせて、「大丈夫か?」と心配の言葉をかけた。
「大丈夫。そろそろ帰らなきゃまずいかなって考えただけ」
「マジか、大変だな」
 あんまり顔を合わせたくない。ひらひらと手だけを振って足早に背を向ける私に、丸井は不思議とよく通った声で叫んだ。
「明日もここらへん走ってるから、よければ来いよー!」

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -