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呪術高専【現在】

シンコペーションアンダーライン


野薔薇は実愛と対面した時、お洒落で可愛い人だとテンションが向上した。

芋臭い同級生にいけ好かない同級生、それから胡散臭い担任といった野郎どもの次に顔を
合わせたのが彼女のような可愛らしい少女だったのだから上乗せであった。

正直、制服に化粧というのはミスマッチな組み合わせだが、けばくない程度にナチュラルに施された
メイクは実によく実愛に似合っていた。お洒落をするにあたり、なにが自分に似合って可愛くそして美しく見えるか。
そこを理解出来ている彼女はお洒落の上級者に違いないと野薔薇は踏んだ。

──と、初めて顔を合わせた瞬間はそこまでだったものの、「今の内に言っておくけど」と五条がぺらぺらと
話し始めた神ノ門実愛その人の生い立ちや事情を強制的に聞かされて印象がかき回されてしまった。

本来なら五条と同じ歳で大人であるべきはずの彼女の姿は、十代半ばの少女のままで留まっている。

それも生まれた時から憑いている呪霊とはまた毛色の違う怪物も一緒だと言う。
一瞬。ほんの一瞬ではあったが、可哀想だと憐れむ気持ちが──実愛を下に見る同情が生まれたが直ぐにかき消した。

気の毒がられて腫れ物のような視線を受けるのは自分だって嫌だし、なにより彼女に失礼な行為だ。
第一、実愛からはそんな雰囲気は微塵も感じなかった。五条が口を閉じたあと彼女は、

「いぇーい、永遠の十七歳でーす」

なんて緩い感じでピースまでして、場を和ますためなのか茶化してみせたのである。
これには野薔薇も少々呆気に取られ、あの適応能力の高い虎杖も同様の様子で、実愛と面識のある伏黒は苦笑交じりのため息。
五条は「本当にね」と面白くも無い事実に面白そうに頷くだけであった。



    ◇



「実愛さん、その腕時計可愛い」

寮の共有スペース。
お茶を用意してくれた実愛の左手に巻いている腕時計に「前から思ってたけど」と野薔薇は視線をやる。

全体的に派手じゃない上品なパステルピンクで、ストラップはシックなレザー。
大きくシンプルな文字盤は見やすさ意外に腕を華奢に見せてくれる効果がある。
文字盤に刻印されているのは有名なブランド名で、学生には手が出しにくいお値段のものだろう。

「ありがとう」

そうはにかんで、彼女は隣のソファーに腰を下ろす。

「大切な人達からの贈り物なの」

文字盤を愛おしそうに撫でる姿は柔和な女性のようで、本来は大人であるはずの真の実愛が垣間見えた気がした。

大切な人達というのは、きっと彼女と同期である五条も入っているのだろう。
プレゼントだと知って、野薔薇は素敵だなと胸がときめいた。

──"同じ時を歩みたい"。

腕時計のプレゼントにはそんな意味がある。時が止まってしまった実愛にはもっとも特別な意味を持つ贈り物だ。
いつか彼女を"彼ら"の呪縛から解き放って同じ時を歩みたい。そんな願いが感じられた。

野薔薇だってその内の一人だ。実愛と一緒にショッピングを楽しみたいのに"彼ら"の存在のせいで叶わない。
高専内でしか自由が許されていない彼女のなんと窮屈なことか。

行動も権利も人生も他人や周りに縛られている実愛を解放したい。
野薔薇が上京して呪術師として決めた目標の一つだ。

「とっても素敵」

カップに口を付けながら野薔薇は微笑む。
いつか、彼女と自由にショッピングを楽しむ日を夢見ながら──



2020.11.02