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がちゃりと部室のドアを開けたら、仁王先輩と丸井先輩がなにやら真剣な表情で向き合っていた。


「俺、お前の事は友達だと思ってる」


「うん」


「なんだかんだ言ってクラスではよくつるむし、部活でダブルス組んでも相性悪くねえし」


「……うん」


「だから………だからな、そのトルテちゃんを俺によこせぇぇえ!!!」


「嫌じゃあああ!!!」




重なった想い人



「幸村部長……」


ギャーギャー言い合う二人を避けながら、俺はパイプイスに座って困ったように二人を見ている幸村部長に近付いた。


心なしか、少し疲れているように見える。


「あぁ…来たんだね、赤也」


「うぃっす。つーか……なんすかアレ」


みなまで言わずとも俺が言いたいことを理解したらしい。


視線を二人から逸らして、どこか遠くの方を見つめながら幸村部部長は言った。


「……仁王と丸井がね、部活に来る途中にケーキを買って来たんだ」


「へぇ……」


「それで、そのケーキをどっちが先に食べるかっていう事で言い争ってるんだよ」


「………………」


くだらねえええ。


なんかおもちゃ売り場の前でだだをこねる子供を見た時みたいな気持ちになった。


くだらねえ。くだらねえよこいつら。


え、お前ら何歳?つーかそんな事で言い争えんの?すごくない?


「なんでわざわざケーキなんて買って来たんスか。どうせ副部長に怒られるのに」


俺がそう言うと、取っ組み合った二人は同じタイミングでバッ!とこっちを向いた。


「だって……こんなに美味しそうなんだぜ?」


「そりゃあ買うしかないってモンじゃろ?」


切実に訴えかけて来る二人を俺はもう先輩じゃなくて五歳児を見るような目で見つめる。


蔑むような俺の視線にも二人は気付いてないらしく、眉にありったけの皺を寄せて相手にガンを飛ばす事に集中し始めた。


額に皺が寄ってすっげえぶさいくな顔になっている二人を見て、俺は立海が“王者"と呼ばれる全国二連覇中の強豪校だってことをちょっと忘れかける。


「だからな、やっぱこれを食うのは先にこいつを見つけたこの俺だ」


「いーや、こんケーキを先に見つけたんは俺じゃ」


「いや、俺の方が明らかに目動かすスピード早かった」


「丸井よか俺の方が観察力に長けとる」


「俺の方が毎朝クラスのドアに挟まってる黒板消し避けてんじゃん」


「それ仕掛けられる回数が俺より多かっただけじゃろ」


「ハァン?てめえ俺がいじめられてるみたいな言い方すんなよ?言っとくけどお前アレだかんな。この間お前の机の上に乗ってたみかんの皮、アレ誰かが間違えて置いたんじゃなくて鈴木が『あーみかんの皮捨てんのめんどくせえ。あ、仁王の机に置いとけばいいじゃん。仁王だし』って言って置いたヤツだかんな」


「ぶっぶー。置いてあったのはみかんじゃありませんんん。バナナの皮ですう。しかも三枚」


「……こんな感じでずっと言い争ってるんだよ」


(うぜぇ………)


やれやれと肩を竦める幸村部長に心底同情したくなった。