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もうそろそろ部活も始まりそうなので、俺は仁王先輩と丸井先輩という存在を無かったことして着替える事にした。


ちょっかいをかけてくる先輩達は、無視。


「赤也ー。聞いてくれよ赤也ー」


「聞いてくんしゃい赤也ー」


「……………」


 黙 殺


「うわ、ブンちゃん赤也が俺らのこと無視しとる」


「赤也のクセにいい度胸じゃねーか」


「赤也のばか!こんぶ!」


「むしろめかぶ!」


「おいテメェらちょっとこっち来い」


やっぱ無理でした。

ていうかお前ら喧嘩してたんじゃないのか。


「うわ、赤也が怒った」


「はっはー、かかってきんしゃいわかめ」


「テメェも蝋人形にしてやろうかァァア!!」


「落ち着いて!落ち着いて赤也!!」


うっかり悪魔化しそうになった所を幸村部長に必死で止められる。


「す、すいません……」


ちょっとおかんむりな幸村部長は腰に手を当ててもう、と仁王先輩と丸井先輩の方を見た。


「二人も二人だよ。ちゃんと二人で半分コしないと駄目じゃないか」


まるで子供を叱る母の如き幸村部長のオーラに「うっ……」と気圧された丸井先輩だったが、気を取り直して言葉を続ける。


「二人で食うのはいい。二人で買って来たからな。だが……」


「このてっぺんのイチゴちゃんを食べるんは俺じゃ」


「いや、俺だろぃ」


「俺の初恋を邪魔するんか?」


「てめーにコイツは勿体ねえよ」


「なんか……必死っすね。ケーキ一つに」


「ケーキを食べるのがよほど楽しみだったんだろうね。二人で手繋いでスキップしながら部活に来たよ」


「仲良いなアンタら」


「誰が何と言おうとこいつは俺のモンじゃ。誰にも渡さん!」


「いや彼女のハートを貰うのは俺だァ!!」


「たまには俺に譲りんしゃい!ブンちゃんばっかモテてズルイぜよ!!」


「アンタら何の話してんスか!?」


「騒々しいな。何を騒いでいるんだ」


するとその時、部室のドアが開く音がして眉に皺を寄せた柳先輩が入ってきた。
どうやら部室の外まで二人の声が聞こえていたらしい。


「あ、おはよう柳」


「おはようございます柳先輩」


おはよう、と挨拶を返す柳先輩にここぞとばかりにガキ二人が飛び付いた。


「参謀!聞いてくんしゃい丸井が!!」


「うるせーよ!それを言うなら仁王だろ!」


ガルルル……といがみ合う先輩達に服の裾を握られたままハテナマークを飛ばす柳先輩。


「………何があった」


柳先輩が尋ねるが、先輩達は相手を睨んだまま一向に喋らない。


隣で幸村部長が一つ深いため息をつくのを聞きながら、仕方なしに俺は答えた。


「なんか丸井先輩と仁王先輩がケーキ買って来たらしいんスけど、てっぺんのイチゴをどっちが食うかで揉めてるんです」


「ほぅ」


柳先輩は腕を組んで寸の間何かを思案すると、その長い指でてっぺんのイチゴをひょいと掴んでパクッと自分の口の中に入れてしまった。


「「あぁーっ!!!」」


途端に二人から悲鳴が上がる。


「何すんだよ柳!!」


「お前達だけで問題が解決出来ないのなら、争いの火種を無くしてしまった方が良かろう」


先輩のその言葉に、ボロボロに叩きのめされる丸井先輩と仁王先輩。


「俺の……俺達の、想い人が……」


「まさか…参謀に横取りされるとは……」


「うわぁ……」


拳を握りしめ男泣きをする二人にもはや幸村部長はドン引きだ。


「俺の…俺のいちご………」


「元気出しんしゃいブンちゃん……ほら、一緒にケーキ食べるナリ」


「さんきゅー仁王……お前、いい奴だな」






「結局あの二人って…仲が良いのか悪いのか分からないっスよね」


「まぁ、それがあの二人なんじゃない?」


end


 
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