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「ひいっ!」

俺のボロいアパートにて。風呂場の方から短い悲鳴が聞こえたかと思うと、何やらブランドもののパンツ一枚を身に付けた晴氏が慌てて走り戻ってきた。テレビの前で胡座かいてた俺にドカッと体当たりでぶつかって、叫ぶ。

「恭祐さん‥!浴室に、なにかいます!」
「浴室?」

浴室ってなんとなく、あんなボロに使う言葉ではないように感じるのは俺だけだろうか。

「まさか、泥棒?」
「いえ、人ではなく、虫が」

まあ、誰も好き好んでこんなボロから物取ろうなんて思わないよな。そして風呂場にいたものとは、もはや常連客であった。

「ああ、水かけときゃ問題ないだろ」
「信じられない、初めてみた。屋内に虫がいるなんて!」

屋内に‥虫。
こいつ、晴は大学で知り合った男だ。俺とは正反対の金持ち、たしか父親がブランドもののなんとかの社長だか部長だか、だっけか。
今日急に「恭祐さんのお屋敷に行ってみたい」と言い出したから、連れてきたのだ。いや、お屋敷?ここが俺のお屋敷だなんて未来に希望が持てない。

「恭祐さん、退治してください!こんなのよくないと思います!」
「よくないとか言われても。てか、なんで風呂入ろうとしてんの?」
「え‥だって学校から帰ったら入りませんか?まず」
「夜は?」
「夜はもう一度入ります」

‥このボンボン。

「‥じゃあ今日は我慢してくれ、学校終わりの風呂」
「な、なぜですか」
「節約」
「節約‥とは?」

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