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空は薄暗い。
愁はそれを気にする様子もなくしゃがんだまま立ち上がらなくて、片手で地面の砂利をいじりはじめた。
「愁…おい。」
「………。」
「帰らないって、じゃあ今日はここで野宿でもすんのか?」
「………。」
「……なんかあったか」
愁の横にしゃがんだ。
それでも俺を見ることはせず、砂利を爪の中に入れては出し入れては出しを繰り返している。
なんかあったか、なんて今更な言葉だと自分で思う。
本当はもっと前に、言うタイミングがあったはずだった。
「愁‥」
「………」
こくん。
頷いた。
今、こいつは何に頷いた?
えっとつまりなんかあったって事なのか、とか考えてるうちに、愁はまた俺を取り残してスッと立ち上がった。
そして前を向いて、さっきの言葉が嘘のように、でもめいっぱい眉を歪ませながら、
「帰る。」
と呟いた。
「え…あ、帰んのか?」
取りあえず俺も立ち上がって、顔を覗き込む。
‥涙とかはなかった。
「帰‥らなきゃ…直樹」
「ん…?」
「………」
愁はまた少し俯いた。
こういう時はなんて声をかければいいか。
無理して帰らなくていいぞとでも言うべきだったのか。愁の手を握ってやるべきだったのか。
そんな事一つもわからないけどやがて愁は、こくん、こくんと頷いてノロノロと歩き出した。
ただ黙ってついていく。
それしかできなかった。
それしかしなかった。
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