その12・終わり
2023/03/26 05:43

烏邸の四人

食後の皿洗いをする宇佐美の真っ白な手を見て、町屋は事もなく尋ねた。


「なんで宇佐美さんの肌は白いんですか。」

町屋が単刀直入にきいたが、すぐに返事は返ってこなかった。その間に耐えかねたのか、宇佐美ではなく居間でみっちゃんと遊んでいるリクの方が返事をした。

「それは、宇佐美さんは…」

「ちょっとまってください。なんでリクくんが答えるんですか。」

「どちらから聞いても同じ事だろう」

そっけない宇佐美の返事に、町屋は少し不満気だ。

「…最近の僕のこと、面倒くさがってます?」

「出会った頃の頃のリクみたいだな」

「まってください宇佐美さん、それ間接的にオレのこと面倒いっていってません?」

ふう、と皿を洗いおわりため息をつく宇佐美。

「リクはおれの生き字引だよ。散々質問に答えただろう」

「生き字引になるほど聞くって…」

「そのうち質問攻めに合うぞ。」

リクは「町屋さん引かないで!」といったが町屋の苦笑い気味を見るにもうすでに手遅れであることは違いなかった。

「全部答えるのが面倒だから、リク、分かるところはもう代わりに答えていい。おれのことで隠すことはない。」

露骨にめんどくさがってる…とリクと町屋は顔を見合わせた。

リクはでもちょっとだけ不満げだ。

「なんか町屋さんになら隠すこと一つもないんだ、ずるいなーおれは3年かけてじっくり聞いてきたのになんかずるいなー」

節をつけてみっちゃんと歌うように不満を垂れ流してきた。
古い友人だからな、と言う宇佐美の言葉にさらにずるいなーーとリクは歌う。心なしがみっちゃんも不満げだった。
逆に町屋は改めて言われて照れくさくなってしまい、何も言えずにいた。

「いいですよ、おれここから町屋さんとも宇佐美さんとも仲良くなって質問攻めにしてやりますから。」

「リクくんも彼女のこととか隠さず話してくださいね。」

反撃のつもりで町屋は言ったのだが、「それはもう町屋さんになら、彼女のことたくさん聞いて欲しいです!」とむしろ喜んでいるのだから世話はなかった。

「町屋さん、おれのこと興味ないのかと思ってましたけど、そんなこと言ってもらえるの嬉しいっす。」

リクのその一言で、町屋は自分の無関心が少なからずリクを、そして過去に出会った多くの人を傷つけていたかも知れないことを知った。

「…もっと本当は知りたいよ。今まで聞けなかった分、たくさん。」

町屋は、笑顔だった。それはひどく不器用なものだったが、普段の表面を撫でるような笑顔とは、違っていた。

みっちゃんは、普段より満足げな様子だった。少なくとも今は、涙を拭わなくてはいけない人は、この場に一人もいなかった。


そのうち生き字引と化す青年リク。
知りたがり屋の町屋。
面倒くさがりの宇佐美。
そして満足げな幼子、みっちゃん。

これは、烏邸と呼ばれる家に住む、4人のお話。



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