「……ダウトォ!!」
寝起きにしては元気だ。後遺症はない。
船に引きずって持ち帰ってからむこう、気絶したまま散々うなされ、飛び起きたと思えば夢の中でゲームをしていたらしい。あれ、と惚けながらあたりを見渡した阿呆面は記憶よりも随分老けて、随分角が取れた。
「…クロコダイル……?」
「俺だが?」
見下すように首をかしげて見せれば、あからさまに肩が跳ねる。それもそうだ。出会い頭に何の謂れもなく殴られれば警戒もするだろう。
もしかすると十数年前にクロコダイルの誘いを蹴ったことを思い浮かべているかもしれないが、だとすればそれはとんだ思い上がりだ。
そんな事はどうだっていい。
「で、てめぇは、何故ここにいる」
我ながら呪詛のようだと思う声音で問いかければ、苦いものを噛み砕いたような顔で媚びるようにクロコダイルを見上げて覗き込む。
「ちょっと、商船の用心棒を…ですね?」
「用心棒?」
「色々ありまして、今回だけ、はい」
ちらちらと機嫌を伺うような仕草は、昔ナマエがクロコダイルの機嫌を損ねた時のお決まりだったものだ。妙な懐かしさと、苛立ちにクロコダイルの眉間がぐにゃりと皺を刻む。
しかし、そうかと腹にとぐろを巻いていたモノがかま首を伏せたのもまた事実。
そうか。用心棒。そうか。
「どこの雑魚が阿呆面下げているのかと思ったが、やはり女子供を養うには甲斐性が足りなかったか」
態とらしく鼻で笑えば、ナマエの眉はへにゃりと下がる。
「いやほんと、女には早々逃げられるし、お前について行っときゃ良かったよ」
ぴきりと、筋肉が引き攣るように動きを止めた。
今なんと言ったか頭の中で咀嚼し理解した時、すっかりと失念していた事を思い出す。そうか。こいつはβで、番なんて本能はなく、何度でもパートナーを変えることが出来る。
死してなお結びつくような番の本能など、どこにもないではないか。
「……なら、やるか、海賊」
「へっ?」
ぽかんと間抜けな面が一層間抜けになって、しかし何かを思案するように芝居かかった仕草で顎を摩る。その仕草が無条件に感情を逆なでし、衝動のまま殴りつけるかと左手を振りかぶるとナマエはまっすぐとクロコダイルを見つめた。
「番出来た?」
「いらねぇと言ったろうが」
結局勢いのまま振り下ろされた左手にナマエは再び意識を飛ばした。
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