痛いほどに握り締められた手首が熱くて、このまま燃えてしまいそうだと思った。

「番になれなくてもいいんだ。ただ、本当に、好きなんだよ」

どうしようもなくなって縋りつくような、そんな目でエースが俺を見る。まっすぐ曇のない、純粋な目だ。だけれどそんな目で見られたって俺も困る。

ガラス玉のような目に映り込む俺の困惑が伝わったのか、エースはまるで逃さないと言わんばかりに手首を握り締めていた力を更に加えた。

「知ってる。分かってる。あんたが番を忘れてないことも、すっげぇ律儀で、一途なことも」

「エース」

「だけど、好きなんだよ…」

言葉を吐き出すに連れて、だんだんと下がっていく視線。返す言葉が見つからずに困惑する俺を咎めるように、昔ツレが寄越したネックレスがかちゃりと揺れる。

番だったツレが死んでもう随分と経った。

エースが海に飛び出した頃だろうか。それとも鼻水垂らして走り回っていた頃か、まだ乳臭い頃か。

とにかく、ツレが死んで随分と経った。

「エース…悪いが俺は」

「分かってるよ!」

ぼろりと、俺の言葉に俺を睨みつけたエースの目から涙が一粒。

「分かってっから!」

その顔に言おうとしていた言葉を失い、次いで、どうしようもなく目の前の人間が愛おしかった。

一生に一人と、本能に定められたそれ。

相手を見定めようとすればするほど、番持ちはコブ付きよりもタチが悪くて、浮気性より手に負えない。

その番を無くした俺は、二度と向けられることはないと諦めてすらいた感情。

「……ありがとうな」

ぐしゃりと、されるがままの頭を撫でるように掻き回して、けれどもそれ以上は何も言えずに唇を噛んだ。