「レイリー…俺はどうしたらいいんだろうか……」

地獄を見てきたと言わんばかりに心折られた仲間に、流石のレイリーとて同情しないわけでは無かったが正直どうでもいいのもまた事実だった。

ちらちらと物陰から覗いてくる赤い髪の見習い共々、とりあえず部屋にでも押し込めばいいのだろうか。いや、それもどうだろう。押し込むなら船底の貨物庫のほうが音が響かない。

「昨日の俺を撲殺したい…」

「キャンセル出来るものでもないんだ。諦めろ」

「いっそ今撲殺してくれ…!」

今までΩが乗り込む事が無かった故の、不測の事態なのは確かだ。ましてや初潮に遭遇するなど誰が予想できるだろうか。事故といえば事故。レイリーには影響が無かっただけに、よほど遺伝子的に相性が良かったのだ。仕方がない。

「まだ発情期終わってないんだろ」

「よく分かったな…」

ついとそこを指させば、この世の終わりを宣告されたような顔でナマエは再び頭を抱え込んでしまった。これだけ距離がある中で誘発されるとは、よほど相性がいいのだろうといっそ感心すらする。

「ううう…なんたってあんなガキに……!」

「当人すらΩだって自覚無かったんだ。避けようがねぇよ」

「ううう…!!」

さていよいよそわそわと忙しなく動き始めた赤い髪にレイリーは一つ息を吐いて、よっこいせと重たい腰を上げた。

「…レイさんや、その手の縄はどうするつもりだい」

「いやなに、面倒になってきたもんで」

「裏切り者おうぐんんん!!」

まぁ事故だろうが何だろうが、早々に番ができて良かった。発情期の度に誘発されるなどたまった物ではない。まだ見習いが入って日が浅いのが怪我の光明。これからじっくり愛でも育んでくれたまえ。

荒縄で縛り上げたナマエを餌に、船底の貨物庫に見習い共々押し込んでレイリーは昼飯にありつこうと食堂へ向かう。ナマエの分も綺麗にいただくので心配は無用だ。

生贄といえば聞こえは悪いが、おかげで残りのαは平和に過ごせるというものだ。