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「#エロ」のBL小説を読む
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「お姉さん、どこ行くの?」

「俺たちと一緒に遊ぼうよ〜」

「……」


神室町、劇場前で私は
名前も知らない男達に
声をかけられてしまう

きっといつものナンパだろう
そう思って無視していた



「なにシカトしてんだ?
せっかく話しかけて
やってんのによー」

「きゃっ…!」



そんな私の態度が
気に入らなかったのか
男は私の肩をぐいっと
掴んで引っ張り寄せる

もう1人の男は前から
挟むように逃げ場を塞ぐ



いつもは無視して逃げてきたが
そうはいかなかった



「や、やめてください…」

「え?なに?周りが
騒がしいから聞こえない〜」

「ちょっと人通り少ないところに
場所変えようか、お姉さん」




男達はにたり、と妖しく笑う
私はそんな表情に背筋が
ぞくっと震えた




怖い





こんな時、偶然
桐生さんや真島さんが居たら
助けてくれるのにな

ってそんなうまい
タイミングで居るわけないのに





「いいから、いいから!」

「そんな嫌がらないってことは
お姉さん、悪い気はしないんでしょ?」



なんとか首を振っては
拒絶するが、それにかまわず
背中を押されどんどんと路地裏へと
場所を移動させられてしまう


周りの目はいらないところで
空気を読んで退散していく


これから怖い目に遭うかも
しれないと思うと
足がどんどんと震えた





「この辺でいいだろ
もうやっちまおうぜ」

「ほら、早く相手してくれよ」



急かされるように
壁に手をついて囲まれる
声を出そうとしても
恐怖のあまり、声が出ない



もう駄目だ…
そう思って諦めた
一瞬の出来事だった



ドォンッ…!!




「…がはッ…!」


大きな音ともに
私を囲んでいた一人の男が
後ろから頭へ強い衝撃を受け
壁に叩きつけられると
私の足元に倒れた


「な、なんだっ…お前…うぐっ…?!」



そしてもう一人の男も
腹部へと強い拳を受けると
大きな音をたてて倒れる



「だ、誰……?! 」


唐突な出来事に
震える体はおさまらず
恐る恐るその人影を見る

暗闇から電灯の灯る場所へと
一歩前へと踏み出すと
そこに居たのは



「大丈夫か、なまえ」


冴島さんだった

大きな体をコートに包んだ
姿が目の前に現れる



「さ、冴島さん……っ?」

「お前が連れていかれんのを
さっきたまたま見かけてな
大丈夫か、怪我ないか?」

「…こ、怖かった…っ……」



助かったことと
恐怖からの解放で
足の力が抜けると
その場で崩れ落ちてしまう

そんな私の腕を
冴島さんは咄嗟に掴むと
自分の方へと体を寄せ
肩を支えてくれた




「お、おい…どうした?」

「すみません…なんだか力が
抜けちゃったみたいで…」

「んで、歩けるんか?」

「……えっ?」

「歩けんのやったら
ワシが担いだる」

「!!
それはっ…さすがに悪いですし…
助けてもらった上に
そんなことまで……!」



ふと出てきた冴島さんの
漢らしくて頼もしい優しさに
私は思わずドキッとする

表情はいつもの冴島さん
けれどそんな心遣いが嬉しくて
言葉に詰まっていると
体が急にふわっと持ち上がる

大きな体と腕で私を軽々と
持ち上げる冴島さんに驚く



「ひゃっ?!さ、冴島さん?!
ちょっと待っ…わ、私
歩けますよっ……?」

「ええんや、それにどうも
歩けるような感じに見えへん
今日は家まで送ったる」

「……っ、あ…
ありがとうございます……」




私がいままで知っていた
どこか恐ろしくて堅い
イメージの冴島さんは
今日そこには居なかった



「家どこや」

「こ、ここの道を抜けて
右に曲がるんですけど…
あ、あの……っ…」

「ん…??」

「…抱っこだとちょっと
恥ずかしいです…」

「女だったらそれぐらい
平気なんちゃうんか」

「そ、それは偏見ですよ」

「ちょっとぐらい我慢せえ」

「は、はい…」




私は冴島さんの顔を
直視できずにただ腕の中で
温もりだけを感じていた

なんだかそれだけで
とても幸せな気分になれた


それはなぜなんだろう





「着いたで」

「………」

「なまえ」

「へっ?!あ、すみません!!
ありがとうございます!!」

「気にすんなや」


家の前に着くと私は
その温かい腕から降ろされる

肌が直接触れ合っていた部分が
空気と触れると冷たく感じ
そして勿体無く思えた



この気持ちはなんだろう


再度お礼を言うと冴島さんは
じゃあまたな、と言って
振り返ってすぐさま
歩いていってしまう

そんな後ろ姿をみて
急に切ない気持ちになる

いままでこんな気持ちに
なったことなんて、ないのに





行かないで






私の手は考えよりも先に
冴島さんの後を追って
裾を握り足を止めていた




「あっ……」

「……なまえ?」

「ち、違うんです…
そ、その…そうじゃなくて」



ちょっとでもいいから
傍にいたいと思えて



「……冴島さん」

「……ん?」



名前を呼ぶと急に
心の底から溢れてくるように
気持ちが押し上がってくる

それは一体なんなのか
今の私にはわからない

きっとそれがなにか
分かっても、すぐに
言えることでもないんだろう



「また、なにかあったら
助けてくれますか…?」

「当たり前や」


冴島さんはそう言って
振り返ると私の頭を
大きな手でがっしりと
掴むかのように
ぎこちなく乗せ
安心感のある笑顔を見せた



「なんかあったら
飛んでいったる」




そんな言葉に
胸がまた高鳴る



「なんで笑っとんや」

「えっ?!私笑ってました?!」

「笑っとったで」



そうか、私きっと




「…冴島さんに抱っこされるなら
もう一回くらいナンパされても
いいかもしれないですね」


なんて、小声で言ってみる私



「なんか言うたか?」

「なんでもないです!」


そんな自分にも笑ってしまうなんて



どうやら私は
音もなくそっと
冴島さんに惹かれたのだった




________________




※あとがき


「まさか冴島さんを
好きになるとは…」

「なんであいつなんや!
ワシの方が断然
かっこええやろ!」

「うーん」

「もう、もうええ…
ワシは今後一切なんも
助太刀したらんからな」

「わっわっ、真島さん!
ごめんなさい!!
拗ねないでくださいよー!!」

「もう知らん!
(まぁ、兄弟なら惹かれて
当然とも言えるけどな)」


納得の兄弟であった





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