卵を買って帰るまでの
たった数十分の間だった


「えっ……」



男はソファの上から
居なくなってしまっていた

私はホームレスの男を
たった一人残していったのだ


ヒヤッとして部屋を見渡すが
特に荒らされた形跡もなく
そんなことよりも、
毛布やタオルなどの小物が
すべてきちんと折りたたまれ
整頓されていたことに驚いた


そしてその毛布の上には
メモ用紙が置いてあり
書き置きが記されてあった



『本当にありがとう。
感謝しても、し切れません。
いつかまた会いましょう。』


たった、それだけだった


私は堪らなく、何故か
その場で泣き崩れてしまった


私は知らぬうちに
あの男に惹かれていたのか
それともただの感情移入なのか

分からなかった





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それから何年経っただろう
私は毎日この通りを歩いている


あの時、出会ったあの男に
一度でいいから会えないだろうか

そう思いながら何度
この道を通っただろう


今はもう、そんな望みさえも諦め
ホームレスに気にもかけずいた







そんな時だった





真正面から歩いてくる男性が
革靴をコツコツと鳴らして
私の少し目の前で立ち塞がる


私は顔をゆっくりと見上げた








「やっと会えたね」








その男は、身なりは違うが
私はその笑顔と声ですぐ気が付いた








「やっと、会えた……っ」





私はその時はじめて確信する
あの時の気持ちは紛れもなく
感情移入なんかじゃない



本気で惹かれていたのだ、と









それが、二度目の私達の出会い。





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※あとがき


秋山さんの出会い。です!
本当に久しぶりの投稿で
若干手が震えています、ハイ(笑)

秋山さんはホームレスでも
金貸しでもカッコイイ。
どんなに落ちぶれていても
惹かれる所がある、という
秋山さんらしさを出したかったです!

うまく表現できているといいな…!


2017.8.26





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