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「#エロ」のBL小説を読む
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「別れよう」




私は振られてしまった

付き合ったとは言っても
半年も経っていなかった

特に人気がある訳でもなく
思い入れもないファーストフード店に
呼び出され、シンプルに振られたのだ

原因がどうとか、それもなく
特に理由も切り出さずに、だった


あまりの素っ気ない終わり方に


「あ、うん…」


私はそれだけしか言えず
元彼は去っていた


一人残されたテーブル席で
頼んだコーヒーを飲みながら
元彼との思い出を振り返る


「なんで付き合ってたんだっけ…」


虚無感のせいでなのか、
本当になにも感じなかったのか
なにも思い出せず私は諦める


「帰ろ…」



コーヒーを飲み終え立ち上がると
窓ガラスの外からガサッと
物音が聞こえ人影が見えた

店を出て辺りを見回してみると
そこには、口笛を吹きながら
頭の後ろに手を組んで
誰かを待っている“フリ”をした
品田さんが立っていた



「あ、あっれぇ〜!!?
なまえちゃんじゃなーい!
久しぶりだねぇ〜!先週ぶ…」

「品田さん趣味悪いですよ」

「えっ?!」


さらにその声は裏返っており
演技そのものだ


「やだなぁ、俺はなんも見てないよ?」

「じゃあなにしてたんですか?
店の窓沿いの草むらで…」


私は品田さんの頭に
ついている葉っぱを掴み
それを差し出すと
ぎょっとした顔でたらりと汗をかいた


「……なまえちゃん、怒ってる?」

「別に、怒ってませんよ…」

「嘘だね、あんな所見られたら
普通女の人って怒るでしょ?」

「……普通は、そうですね」



でも、本当に怒りなんてなかった

思い出せなかったくらいのことなのだ
逆に虚しくなってくる


「なんで付き合ってたんだろ、って
思っちゃうくらいの人でしたよ
だから私は平気なんです」

「へぇ〜、なまえちゃんって
やっぱり見たまんまドライなんだなー」


私は首を傾げて自分に問いかける


「ドライ、です…?」

「あれ、違った?
だってさっきだってさ、
別れを切り出されても何一つ
表情も変えないで居てたでしょ?」

「あー、まー、そうですね」

「あ、ほらっそれそれ!
“あー、まー、そうですね” のセリフ!
“私って〜、ドライな感じ〜みたいな〜”」


品田さんは私の真似をしながら
喋り方を寄せてきているが
それがあまりにも似てなさすぎて
私は可笑しくて笑ってしまう


「あははっ、おかしい!
全然似てないし、変なのっ!」

「そんなことないし!
マジで今の似てるから!」


お腹を抱えて笑う私に
品田さんも合わせて笑う

ふたりでそうして話していると
さっきまでの虚無感が
いつの間にやらなくなっていた





___________________





それから数日後

私は用事があって
街に出ていた帰りに
一人ブラブラと歩いていた


とある角を曲がった時
その先に見えた光景に
私は慌てて近くの建物で身を隠す


なんと、あの元彼と
品田さんが向かい合って
話をしていたのだ


元彼の傍には、新しい彼女なのか
私とは正反対のタイプの女性も居た

すでに元彼に彼女が居たところで
ショックを受けることもなく
普通にその2人を見ていられる私には
品田さんの言う通り、ドライという
言葉がピッタリだった


私はバレないように近寄りつつ
物陰に隠れながら様子を伺う



「品田さんって、なまえと
どういう関係なんですか?
もしかして、彼氏?」

「はははっ、なに言ってんの!
こんなオジサン相手にしてくんないよ」

大きな声で笑うその声は
辺りの建物に響き渡る


「それにさ、なまえちゃんは
君と別れたばかりでしょ?
それになまえちゃんは
君みたいに色んな子と
浮気したりしないからね」



え?!


品田さんの言葉に
驚き気付かされる

私は浮気されていたのか


「いやいや、浮気なんて
するわけないでしょ」


隣にいる彼女は引き気味だった


「実は君がさ、なまえちゃんと
別れる前から色んな子と出歩くの
ちょくちょく見掛けてたんだよね〜
ネカフェで働いてる受付の子とか
キャバクラ嬢のユリちゃんとか
あ、隣のその子もだったね」


「は、はあ?何言って……」


「君と別れたばかりのときさ〜
なまえちゃん言ってたんだよ
なんで付き合ってたんだろって
そりゃそうだよな、君が他の子と
出掛けてたらそりゃ思い出なんか
あるわけないもん」


そう言って品田さんは元彼の
隣にいる女の人の肩を叩く

「君はそのうちの一人だよ」


そう言い放つとその女の人は
ドン引きしながらその場を離れていった

元彼も慌てふためきながら
逃げようとスキをうかがっている


「え?あぁ、別にいいよ逃げても!
逃げるのは別にいいんだけどね、」


にこにこと笑いながら
元彼の方にも肩を叩く


「俺みたいになっちゃうよ?」


その顔はマジだった

逃げれば逃げるほど
自分自身を追い込んでしまう

誰よりもそれを一番に
理解している品田の
その言葉ほど説得力の
あるものはなかった



走り去っていく元彼を見て
私はなんて凄い場面をみて
しまったのだろう、と
驚愕しそのまま立ち尽くしていた


運悪く、隠れていた建物の方角に
品田さんが向かってくる

気付かずそのままスルーして行き
私はホッとする


が、


「なまえちゃん、
趣味悪いよ〜?まったく〜」


バレていたようで私はまんまと
やり返されてしまったのだった




____________________




それから帰り道は
二人でずっと話をした


「品田さんのこと
ちょっと見直しました
正直かっこよかったです」

「やった〜、って…
なまえちゃんの中で一体
俺はどれだけできない人間なの」

がっくし、と見るからに
分かりやすく項垂れる品田さんを
横目に私はまた笑う


「人の話を立ち聞きするなんて
お互い趣味が悪いってことで
私たち、気が合うかもしれませんね」

「えっ、じゃあ俺と付き合っちゃう?」


二カッと満面に笑うその顔に
一瞬心推されそうになりつつ
私は同じように満面で返す


「それとこれとは話が別です」

「もう〜ドライだなぁ〜!」






___________________



※あとがき


「俺は浮気しないタイプだよ?」

「あー。はい、そうですかー」

「だから、さ!そのさ!」

「品田さんちょっと本読んでるんで
静かにしてもらってもいいですか」

「うわーん!めっちゃ最近ドライ!!」



いじめられる品田だった。






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