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「なぁ兄弟、あの子誰や?」

「あぁ、桐生が連れてる子か、みょうじなまえや」

「みょうじなまえ、ねぇ」


クククッ、とその男は妖しい笑みをする


「なんや・・・お前また何か企んどるんちゃうやろな?」

「まぁ考えてないって言ったら、嘘になるなァ」

「ほんま・・・お前は暇な奴やな・・・」


冴島は大きく溜息をついて呆れる
またこの男はやらかしてくれそうだ、と







―――――嶋野の狂犬―――――


神室町でその男の名を知らない奴は居ない



東城会直系真島組組長

―真島吾朗



私はその真島という男に
一人で会うように呼ばれ
神室町へと足を運んでいた


お互いの顔を知らないので
真島さんの外見だけでもと
桐生さんに聞いてみた

すると桐生さんは真面目な顔で答える


『すぐに分かる』

『き、桐生さん・・・それじゃ流石に分からな・・・』

『きっと大丈夫だ』



こんなに雑な伝え方があるだろうか
世の中には顔も体も性格も
似たりよったりな人間が多いというのに
「すぐに分かる」という一言で片付けてしまうなんて


―そんなんじゃ、分かるかー!


そうやって桐生さんに対して怒ったり
会えるかどうかの不安を抱きながら
一人、トボトボ歩いていた


ドンッ


正面から何者かにぶつかる
それはそれは、わざとらしかった


「あぁー、痛いわァ・・・」

「ご、ごめんなさい」


慌てて相手の顔を見上げると
桐生さんの言葉を思い出す


「すぐに・・・分かる・・・」



左目には蛇印の眼帯
蛇柄のド派手なジャケットを
素肌の上から直接羽織り
そんな素肌から、ちらりと見える
胸元から背中まで掘られた刺青が
恐怖を引き寄せる



この人が・・・、真島吾郎・・・なのだろう


「これは折れたなァ、折れてもーたわ」

「えっ、えっと・・・そのっ・・・」

「どないしてくれんねん、嬢ちゃん〜?」


ずかずかと男は私に攻め寄ってくる
その表情はまるで、鬼

私は怯えるように後ずさると
その姿を見て男はころっと表情を変えた



「なぁーんてなァ!お前がなまえちゃんやな!
驚かせて悪かったなァ〜、なまえちゃん〜」


ニタリと怪しげに笑うと
私の肩に左手を乗せる



「ま、真島さん・・・なんですよね・・・?」

「あぁ、そうやでェ」

「あー、良かった・・・無事会えて・・・」


私は安心して一息つく


「でも・・・今日は、どうして私なんかを・・・?」


相手に対する恐怖を必死に抑えると、
自分が呼び出された理由を聞いた


「ん〜、いまからえぇとこ行くんやけど、
なまえちゃんにも来てもらおう思ってなァ〜」

「・・・えぇ、とこ・・・?」

「せや!まぁ簡単に言うと、デートやな!」

「で、デート・・・」

その一言に私は少しドキッとしてしまう


すると真島さんは右手に
持っていた野球のバットを振り上げた


「えっ、ちょ・・・なんでバット・・・!?」

「そこに行くのにこれがあった方がいいねや」

「そうなんですか・・・で、でも
 なんだかんだで、こうしてお会いできて光栄です」

「おうおう、それはありがたいわ〜」


そうして私は真島さんの後を追っていく



にしても、こんな怖い顔した人でも
バッティングセンターに行くんだ

バッティングセンターかぁ
行ったことないから、ちょっと怖いなぁ・・・
それより私、ちゃんと打てるかな?

と、行き先を自分で勝手に決めつけていた


――――――――――――――――



しかし


私の考えは場外へ打ち放たれた

神室町の路地裏へと入り込んでいくと
そこには街のチンピラが屯していて
ざっとみた感じだと、20人ほど集まっていた

私たちがその場所へ足を踏み入れると
その場にいる全員がこちらを睨むように凝視する



「あ、あの〜・・・真島さん・・・?」

「なんや?」

「この人たち・・・お知り合いですか・・・?」

「知らん」

「え!?し、知らないって・・・!」


私は聞こえないように小声で
囁いてあげているのに
真島さんは気にもしない顔で
相手に聞こえるように返事をする

「な、なんだかこの人たちヤバそうですよ・・・?」




「オイ、何をさっきからコソコソと話してんだ?」

そんな柄の悪そうな男たちが
次から次へと立ち上がり
こちらへと、近づいて来る


「まっ・・・真島さんっ・・・!」

「・・・なまえちゃん」

真島さんは泣きそうになっている私の顔を
真剣な眼差しで見つめてきたと思うと
私の背中をバンっと力強く押し
そのチンピラの群れの中へ放った



「!?ま、真島さ・・・」

「・・・おい、オッサン。なんの真似だ?」

「その女で〜・・・俺と賭けんへんか?」



―!?




真島さんはニッコリと笑っている
私をこんな人達の元へ突き出して
あんなに喜ぶ人がいるだろうか


「おい、このオッサン頭可笑しいんじゃねぇか!?」

あっはっはっは、と男たちは笑う

そりゃ私も可笑しいと思う、これは可笑しすぎる
なんで私はこんな目に遭わなければいけないんだ、と


それより私はどうなるの?
真島さん、大丈夫なの?
勝てるの、ねぇ!?



「せやな〜、俺もそこまで頭良うないからなァ〜」

「お前、よく分かってんじゃねぇか
全く本当に呆れた馬鹿だぜ!

おいお前ら、・・・殺れ!」


その合図と共に男たちは真島さんに向かっていく



男たちの喧騒に混じり、真島は
まるで人生を謳歌しているかのような
満面の笑みを見せる


―馬鹿やから、手加減できへんねや


そう言い放つと荒々しい喧嘩が始まる




その乱闘中、私が覚えているのは
返り血を浴びながら
舞い狂い悦ぶ真島さんの姿だった

私はそんな真島さんを目の当たりにし
ただただ呆然と立ち尽くしていた


――――――――――――――――


「はぁ・・・なんや、もう終わりかァ
もっと楽しませてくれやァ〜」



気がつくと、私を取り囲んでいた男たちは
山のように積まれ一人も生き残っていなかった


「・・・この人たち、ちゃんと生きてますよね・・・?」

「せやから〜、手加減できへんって言ったやろ!」

「・・・え?」

「・・・息、してるといいなァ」

「!!!!!」


私は嫌な悪寒がして
真島さんの手を握り取り
その場からすぐさま逃げ出した


「なまえちゃん、どないかしたか?
 そんなに急いで・・・」

「真島さん、あなた本当に馬鹿ですよっ!」

「せやから〜、それもさっき言うたやないか!」


そんなやりとりをしながら呆れかえる
でも私は、なぜか自然と笑っていた

あんなに怖い想いをしたのになぜ
こんなにも笑えるのか不思議だった


「なにニヤついちゃってんのよ、なまえちゃん」

「なんでもないです!」


こんな人になら、振り回される人生も悪くないなぁ
だなんて少し思ったりしながら


なんだかんだで、私も馬鹿なのだった


――――――――――――――――


※あとがき


後日

「なまえちゃん、デート行こか!」

「絶ッッッッッ対嫌です」

「そないケチなこと言うなやァ〜」

「ケチで結構!行くんなら
桐生さんと行ってくださいっ」

「おい、俺を巻き込むな」


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