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 城之内くんに警察に相談した方が良いんじゃないかと提案したら自分の手で取り戻したいなどと言ってて警察に相談する気はさらさら無いようだった。こだわりを持つのは構わないが不良が話していた内容を考えるにこれは常習的に行われている事らしいからとっととしょっぴいて貰った方が良い様な気がする。私は靴は履ければ良いというお洒落も糞も無い考え方なので城之内くんの考えはそもそも大金をはたいてスニーカーを買うと言う行為から理解し難い。
 城之内くんがこの後するであろう行為を考えると、これ以上関わったらろくな事にならないに違いない。帰りたい。そうだ家へ帰ろう。そう思い踵を返そうとしたら城之内くんに肩を掴まれた。

「おい遊戯どこいった?」
「え?」
「お前さっき一緒にいたじゃねえか」

 そういえばと辺りを見回すが確かに武藤くんの姿は無かった。いつの間にどこへ行ってしまったんだろう。不良は相変わらず城之内くんの足元でのびているので1人でどこかに行ったと思われる。私同様帰ったのだろうか。私も帰りたい。

「か、帰ったんじゃないの?」
「それは有り得ねえ」
「なんで?」
「あいつ俺達のリベンジに自分も行くって言ってたんだ。勝手に帰るわけねえだろ」

 随分とした信頼っぷりである。男同士だし私なんかよりも全然付き合いは深いらしいのでそれもそうかと1人で納得した。携帯に連絡してみたらどうかと言ってみるが、どうやら武藤くんは携帯を持っていないらしい。今時珍しい。
 こいつらの仲間に連れて行かれてたらやべーなと城之内くんがのびたままの不良達を軽く蹴飛ばす。さすが城之内くんも不良なだけあってやる事がえげつない。不良達からはうあーと痛々しいうめき声が聞こえた。
 ふと、店内の様子がおかしい事に気付いた。ところ狭しと並んだゲーム機から流れる喧しい音の中に聞こえる人の話し声に違和感を感じる。慌てて周りを見回すと店員らしき人達が今警察をどうのこうのなんて話しているのが聞こえた。ひょっとしてこれはやばいのではないのか。

「ね、ねえねえ、ちょっとこれやばいんじゃ……」
「みてーだな。逃げるぞ」
「は?」

 私が聞き返そうとしたのも束の間、城之内くんに手を引かれ店内を飛び出した。私達が走る反対側からはパトカーと思しきサイレンの音が聞こえた。城之内くんの足について行くのに精一杯で考える間など無かった。
 少し走って小さな路地に逃げ込んだ。城之内くんも本田くんも足速すぎて死ぬかと思った。運動嫌いな身としてこの全力疾走は非常に辛い。大丈夫かと訊いてくる城之内くんに誰の所為だと悪態を吐きたかったがそんな余裕も無いくらいには疲弊していた。膝に手を置いて肩を上下させながら、少しでも早く息を整えようと深呼吸を繰り返す。あのゲーセンもう行けないなあなんて考えているうちに呼吸は落ち着いてきた。ああもう帰りたい。ていうか帰ろう。

「わ、私帰りたいんだけど」
「遊戯探さねーのかよ」
「いやだから武藤くんも帰ったんでしょ」
「俺達に何も言わないでか?」
「急用を思い出したのかも知れないし……と、とにかく、私は帰りますお二人ともまた明日!」
「あっおいコラ!」

 早口で別れを告げると2人から逃げるように小走りで路地を出た。大通りは人がそこそこいるので人混みに紛れてしまえばこっちのものである。城之内くんが追いかけていない事を確認しながら小走りで家の方向へ向かう。さっきまで全力疾走していた所為で両足が非常に怠い。

「いたっ」

 余所見をしながら走っていた所為で誰かにぶつかってしまった。慌てて謝罪をすると苗字さん? と聞き慣れた声で名前を呼ばれたので顔を上げると武藤くんが立っていた。こんな偶然あるんかーいと脳内でツッコミを入れていると武藤くんが右手に何かを持っているのに気付く。靴だ。

「それ何?」
「え? えっと、これ城之内くんのスニーカーなんだけど」
「不良に盗られたって奴?」
「うん。でも何で僕が持ってるのかわからなくて……」
「は?」
「うーん、僕もよくわからないんだけど、ゲーセンに居たと思ったらいつの間にか城之内くんがスニーカーを買ったお店に居て、そこのオーナーはサソリに刺されたみたいで救急車に運ばれてて……あっサソリはオーナーのペットなんだけど」
「はあ」
「それでスニーカー持ってたからまあ良っかと思って持ってきたっていうか」
「はあ……」

 いつの間にか、という言葉を聞いて嫌な考えが頭に浮かぶ。彼が記憶を無くす理由なんて一つしか考えられない。だが、本人が自覚をしていない以上はその心当たりについて尋ねるわけにはいかない。城之内くん達が探していたと伝え、その場で別れた。ついでに携帯も買った方が良いと助言しておいた。彼の首に掛かっているパズルが手を振る度に街灯の光をチラチラと反射させていた。



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2014.3.13