epilogue


 承太郎さんと話をした数日後。私は墓地に足を運んでいた。ずっと敬遠していた場所だったのに、足取りは予想よりもずっと重さを感じなかった。
 小さな霊園の中をしばらく歩くと、花京院家と彫られた墓石を見つけた。最近も誰かが来たのか、生けられている花はまだ綺麗だった。墓石横の石碑に掘られた花京院典明の名前を見つけて、ここで間違いないことを確認した。
 私は墓石の前で一礼をしてその場にしゃがみ込んだ。

「こんにちは。ここに来るの、遅くなってごめんなさい」

 謝罪の後に、持参した線香を取り出した。ライターが線香の束に熱を持たせたことを確認して、墓前に置かれた金属皿に乗せ、合掌をする。目を閉じて、心の中でもう一度、遅くなったことを謝罪した。伏せた目を墓石に掘られた花京院の文字へ向ける。灰色の石の向こうに、柔和な笑みを浮かべた花京院が見えた。私は、耳につけたサクランボのピアスをいじりながら、墓石の向こうへと小さく話しかけた。

「ねえ、……典明くん」

 話したいことが、沢山あるのだ。



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