1話
初めて席が隣になった彼は一度驚いたように目を丸くした。それを挨拶のように受け取って、会釈だけすると、よろしくなと小声で言われた。ただの移動教室で、一回きりの縁かもしれないのに。律儀な人だな。私も彼にならってよろしく、と小声で返した。
授業が始まって、少し経つと2つ並んだ机の反対側から手が伸びてきて、机をトントンと叩かれた。
「お前、ここわかる?」
「多分」
間違ってたらごめん、という気持ちで言ったのに、そんなことは気にしていないらしい。目をキラキラさせて、サンキュ、と言った。
「苗字って頭いいのな」
説明が終わると、頷きながらそんなことを言う。理解してくれたみたいで良かった。
「そう?」
「そうそう。あ、」
先生の目盗み見て、スッと机の下に出したのはスマホ。ギョッとする私を見てシーっと指を立てた。クラスでは授業中にこういうことする人も多いみたいだし、私もそこまで気にはしないけど。じっと見ていると先生にバレそうだったから、そっと目をそらした。
そうしてしばらくすると、トントンと今度は腕が叩かれる。振り向いて視線を落とせば、褐色肌の男の子が上半身裸で、決めポーズをしている写真。
「ふ、」
「あ、笑った」
「いや、だって……これは笑う」
「面白いだろぃ。いつだったかな、ジャッカルにやらせた」
声も出さずに笑い続ける私を見て、丸井くんもつられて笑う。
「女子はこういうの嫌がるかと思ってた」
「多分そうでもないと思うよ」
「へ〜、んじゃ、勉強のお礼に苗字に送っといてやるよぃ」
「いらないよ?」
そんな私の声は無視で、ラインでクラスのグループラインを開く。お前これ?と聞かれたアカウントを確認して、頷くと、慣れた手つきで追加して、さっきの画像を送ってしまった。
「夜に1人で見てにやけんなよぃ?」
にやけません!!!!!
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