「最近さ、じゃんけんすることよくあるじゃん」
パンをもそもそと口に含みながら話す。今日は千尋ちゃんが休みだったから教室でお昼ご飯だ。
「お前らが勝手にやってるだけだろ」
「グリコは跡部さんも乗り気だったでしょ」
「駄菓子屋のは岳人と苗字さんのせいやけどな」
「私の恋人のためならジャンケンくらいどーってことないだろ」
恋人とはもちろん、チョコのことだ。あの時に買ってもらったチョコはまだ家に保存してある。驚くほどチョコしかなかった。チョコ、チョコ、チョコだ。チョコは正義。
「でさ、小学校の頃よくやんなかった?これで無敵って」
「…それが無敵なのか?」
「無敵!ほら、親指んとこでパーで、チョキで、グーでしょ?」
ピースの親指を出した状態を跡部さんに向ける。説明をすると、跡部さんの目がキラキラと輝いている気がする。
「すごいだろ!」
「無敵か!」
「イエス、無敵!」
すげぇとでも言うような目で見てくる。
跡部さんの喜ぶ観点は小学生レベルな気がするが、それでも私が絶対経験できないこととか経験できてるんだろうから…この世界の差別が酷いことがよくわかるだろう。
「ジャンケンといえば、ジャンケンホイホイってあるやん?」
「え、何それ」
「ジャンケンホイホイどっち隠すーってやつ」
「ジャンケンピンポンじゃないの!?」
「お前はどこの人間や」
「知らんよ」
「あれ地区で違うらしいしなぁ。でもジャンケンピンポンは聞いたことないわ」
「そんなジャンケンあんのか?」
「ある」
地区によって違うということを知って驚き桃の木山椒の木だ。
従姉妹のを聞いて覚えたからなー。多分従姉妹の方の地域ではこれなんだろうけど。
「ジャンケンピンポンどっち隠すーこっち隠すーってやって、なんか、あんた馬鹿ねみたいなノリのこと言うんじゃなかったっけ」
「そうそう。んで、ビームフラッシュやな。ピンポン意外は一緒や」
「最初にジャンケンしたのに決着はつかないんだな」
「それは言っちゃダメ」
昔はよくこれで遊んだものだ。弟と。
それにしても、ジャンケン言い過ぎてジャンケンのゲシュタルト崩壊。
「苗字さん、ジャンケンホイホイどっち隠す〜こっち隠す〜」
突然のジャンケンに焦って私が出したのはパーとパー。焦り過ぎた。忍足はパーとチョキ。
「あんた馬鹿ね」
「あんたよりマシよ?」
「え、そんなん言うん?」
「言ってた」
「ふーん。ビーームフラッシュ」
その言葉を合図に私は二つのチョキを眉あたりにもっていく。と同時にパシャっという音。
「あかん…苗字さんの変なとこ撮ってしもうた」
「おい忍足。おい忍足!!!!」
「跡部、これ、見てみ?」
「アーン?何だ?」
忍足はずっと過呼吸になりそうなほどヒーヒー笑ってるし、画面を見た跡部さんも吹き出すし。
「え?何?そんな酷いの?え!?」
「テニ、ス部にっ一斉送信、するわ」
「すんなよ!!消せよ!!」
「岳人からっもう、返信、きよった」
忍足がまだヒーヒー言った状態で私にメールの画面を向ける。メールの題名は拡散決定。内容は、苗字かおひどい
「は!?向日何やろうとしてんの。それから、跡部さんは大丈夫?」
「問題ねぇ」
「問題ありそうだけど」
「跡部の携帯にも送っといたで」
「忍足も何してんだよ。そういえば、今更だけど向日は?」
「今日風邪引いて休みやと」
千尋ちゃんといい向日といい風邪が流行っているみたいだ。体調管理には気をつけよう。
とりあえず、向日はざまぁであるが、拡散を止めれないから、早く学校に来るんだ向日。
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