ロツィオーネファミリーの殲滅が完了し、スクアーロとアナスタシアは先に向かわせた他の部隊を追うようにして次の標的の元へ向かう。

移動中の車内は行き同様静かなものであったが、その空気はどこか柔らかかった。




スクアーロはアナスタシアの過去を詳しくは知らない。

ただ、暗い外を切なげにぼんやりと見つめる彼女へかけるべき言葉などは見つからなくとも、こうして信頼の置ける人間が近くにいる事で少なからずコイツの心の安寧に繋がればと、そんな事を奥底で漠然と感じていた。






「……?」




「っ」




そのまま暫く眺めるように見ていたせいか、ふと視線を感じたアナスタシアと目が合いスクアーロにとって気まずい空気が流れる。

彼自身そんなに長くアナスタシアを見つめていた事に驚いていたというのもあったが、いつにも増して柔らかいその表情は悲しみと安堵の混じる何とも不思議なものだった。

故に、気の利く言葉を持たないスクアーロにはこのような状況でどう声を掛けるべきか、よく分からなかったのだ。







「…。スクアーロ…?」




そっと伸ばされた冷たい手は、アナスタシアの温かな頬を包んだ。


義手である左手ではその体温も感触もよくは分からない。
微かに紅潮した肌を母指で撫でるようにして触れた後、髪をくしゃりと一撫でして手を離し、目的地への到着を待った。







ここに来て初めて呼ばれた名前に対し、顔が熱くなるのを悟られないよう、じっと目を閉じながら。







ー冷たい温もりー





機械で出来たその指先は、何故だかとても温かいように感じられた。



2016.06.01 Yuz

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