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次の日、一護とルキアと合流して、学校に登校する。
『おはよっ、一護もルキアも、おはよー』
「おぉ、はよー」
「おはようございます」
『ふぁ〜…ねむい』
「……昨日遅かったからな…」
昨夜はいろいろあったからねー。
織姫の兄貴が虚になってたり、その虚に襲われたし、家に咲夜と帰ったら、時間も遅く連絡を入れていなかったので、母親にこってり怒られて、父さんは彼氏が出来たのか〜ってニヤニヤしていたので、蹴り飛ばしてやった。
いろいろ昨夜は踏んだり蹴ったりだった。
現場はそのままにして帰ったけど…あの二人は本当に大丈夫なのだろうか。織姫も、ちゃんと起きれたのか。記憶も…どうなっているのか心配だ。
『うん。織姫たち本当に昨夜の事覚えていないのかな』
「はいっ大丈夫です!!」
「…だとよ」
『ものすっっごく、不安なのはあたしだけか』
「安心しろ。俺もだ…」
良く考えなくても…記憶を改ざん出来るって…怖くないか?
そんな事を考えて、一護と一緒にぶるっと身震いした。ふと、昨夜自分に起こった事も思い出して――…ルキアに目を向けた。
『そう言えばルキア』
「はい?」
『昨日…あたし、なんで一護と同じ格好になったんだろうか?魂魄の状態なら織姫と同じように、ここに鎖がついてなきゃおかしいと思うんだけど。……やっぱあたし死神になってたの?』
でもなんで…。だって死神になる条件をあたしは満たしていないのに。
一護も気になったのか、ルキアに視線を向け――ルキアは、二人から視線をずらして感情を押し殺した低い声を発した。
「昨夜の、カンナさんのお姿は…確かに死神の姿でした。カンナさんが…なぜ死神になったのか、私にも判りません」
ルキアの様子に、あたしは気付かないで、そうかやっぱり死神になったのかと、頷く。
一護は隣で、片眉を上げながらルキアを見て、欠伸をこぼした。
『ふぅん。じゃあこれで、一護達の仕事を本格的に手伝えるね』
「カンナさん…」
「なっ、危ねぇマネさせれるかッ!仮にもテメーは女なんだぞ」
『仮にもって何だ、仮にもって。今更でしょ!今まで何度もチャドと三人でケンカしてんじゃん。ケンカ売る相手が虚になっただけじゃない』
「……はぁ。無茶はすんなよ」
『わかってるって』
軽く戦えると言い放ったカンナに、ルキアも一護も目を見開いて、反論したけど、彼女は意見を変えず――…一護は呆れて溜息を吐いたが、彼の口角は上がっていた。
「もうちょっと驚いたりしないのかよ」
『なにが?』
「理由も判らず死神になって、不安になたったりだな、こう…可笑しいと思うだろ。死神だぜ?」
『その点に関しては、不思議と違和感がなかったんだよねー。むしろあの格好が本来のあたしみたいな…なんて言ったら伝わるか判んないけど。それに…』
あたしは、日本に来てから良く見るようになった“夢”を思い出す。
あの夢には何かあるように思えてならない。だけど、あたしは今まで変わってしまいそうな何かを恐れて、夢の事は考えないようにしていた。
それがルキアと出会って、それから死神になってしまって――…あの夢も自分の一部だと受け止める事が出来た。そのせいか今朝は頭痛はしなくて、眠気を除けば体調はスッキリしている。
『いや、なんでもない』
「なんだそりゃ」
ルキアと一護の視線があたしに集中しているのに、気づいて、続きは言わなかった。
どう言えば伝わるか判らなかったし…何より、これは他人に言ってはならないと本能が警報を鳴らしていたから。
だから、それ以上は何も言わず――…私は、怠そうにしている一護の背中を鞄で殴って、未だ納得していない表情をしていたルキアに声をかけて、さっさと行くよーと笑ってやった。
欠伸をしながら一護と教室に入った瞬間に、織姫の声が聴こえた。
「本当だってば!!ホントに、部屋に横綱が来てテッポウで壁に穴をあけたの!!」
『……横綱…』
あの戦闘の後を…そんな記憶に……。
「まーた、アンタはそういうコトを…」
「おりひめェ…」
「イヤ…まあ、あたしはヒメのそういうヤンチャな脳ミソも好きだけどさ…」
当然、そんな現実離れした織姫の話は――…メガネが似合う本匠千鶴や国枝鈴、黒髪の夏井真花、おっとりした小川みちるにまで、信じてもらえず。
「ホントだって!ね!たつきちゃん!」
「あ…う…うん」
「うえ〜たつきまでそんなこと言うのォー!?」
織姫が、本当だってぇと背後にいた、たつきに同意を求めて――…千鶴たちは驚愕していた。
その光景を教室の入り口で、突っ立ったまま会話に唖然とした。あたしは思わず口を引き攣らせ、一護は半目に。
「…なるほどこういうコトか」
「な?よく効いていただろ?」
『内容に…無理があるんじゃないの?』
「ああ」
「あーカンナちゃん!」
突っ立ったままのあたしに、織姫と視線が合い、皆に気付かれた。
『おー、おはよ』
「カンナちゃんも一緒だったんだよ!ねっ、カンナちゃん!昨日、横綱がウチに来たんだよね!!」
『ん、うん…』
「えぇぇぇ!!!カンナまで、それ言う〜!?」
『いや、ホントだから。信じられないなら…織姫の家に行きなよ。凄いことになってるから、ね?たつき』
「……うん」
「えぇぇ!!!!!」
騙そうとしてるんじゃないの〜なんて、口を尖らせている鈴を見て、釈然としていないたつきと一緒に苦笑した。
あたしは真実を知っているけど…たつきは、入れ替えられた記憶に戸惑っているみたい。織姫は素直に信じているみたいだが。
まあ…虚云々より、こっちの記憶の方が安全で、違和感ないのかも。友達に信じて貰えないのは辛いかもしれんが。
まだ、信じないと騒いでいる三人を一歩下がって、たつきと織姫と苦笑し合う。さらにあたし達から一歩離れた後ろから――…ルキアと一護が、安堵から微笑んだ。
何かが変わっていくあたしの日常。
だけど、あたしはこの平和な日常を守りたいと思う。
(良かったな織姫)
(兄貴と仲直り出来て)
(織姫が憶えていなくても、あたしが覚えてる)
to be continued...
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