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我が家の朝ごはんは和食だ。父の従兄弟である――…現在では、私の義父である、この神社の神主、葉山遥人が「日本の朝は和食に限るッ!」と和食しか認めないからである。

とは言っても、数年前までは一緒に暮らしていたけど、高校入学を機に独り暮らしをしているから、こうやってたまに帰って来ている時だけ和食をねだられるのだ。

今朝のメニューは、白ご飯に納豆、それからお味噌汁に、卵焼きにウインナー。ちなみに卵焼きとウインナーは弁当のついでに出しました。


『今日は外泊になるので、そのまま自分の家に帰りますね』

「仕事か?」

『いえ…山田に来た依頼は断ったのですが、実は後輩が調査に来ていたゴーストハンターのカメラを壊してしまいまして…私もそのお手伝いをすることになったんです』

「ふーん、ゴーストハンターって?」

『はい。霊能者ではなく科学的に立証する…みたいな?』


――私も詳しくは知りません。

卵焼きを口に入れる。――甘すぎたかな…?


「まぁいいけどよーちゃんと護衛つれてけよ?」

『護衛って』


遥人さんの言葉に苦笑する。遥人さんの言う護衛とはジェットとヴァイスの事だ。

ジェットは黒狼の妖怪で人型にもなれる。って言いますか…普段は人型で過ごしている。力を全開に使う際に妖怪に戻る感じで、黒髪に金の瞳。

ヴァイスは雪女ので、こちらは銀髪に蒼色の瞳の持ち主で、色気ムンムンな大人な女性である。……大人な女性ってのは見た目だけど。中身は子供みたいに無邪気で、憎めない。


《当たり前でしょ!瑞希様から離れないよ》


そんな彼等には式神としてではなく身内として接したいんだけど…ジェットもヴァイスも訊いてくれない。出来るだけ自由に生きて欲しいのだけれど。

遥人さんにヴァイスが身を乗り出して答えていた。


「おぉ!任せたぜ」

《俺も行く》

『ジェットも?別にいいけど…。じゃあ二人とも放課後になったら来て?それまで暇だろうし』

《分かった》

《はーい》


二人とも笑ってはいるけど、目が笑っていない……大方、リンさんを見に行く気だな。

実際はジェットもヴァイスも、瑞希を怪我させた後輩と、瑞希が庇った男性の顔を拝みに行き、あわよくば仕返ししてやろうとの思いからの笑みであった。


『じゃあ、行ってきま〜す』

「あぁ、行ってらしゃい」


遥人さんの挨拶を聞きながら学校へ出発した。







 □■□■□■□



放課後になったので、ジェット達を探す。担任の先生が、きっと雑用でも私に押し付けようとしたのだろうけど…チャイムと共に教室を出た。――訂正、走って出た。

ジェットとヴァイスは旧校舎の入り口にいた。


《来たな》

《おそ〜いっ》

『(ゴメン、ゴメン)』


何処で誰が見ているかも分からないので、彼らが姿を消している状態の時は会話が出来ない。 苦笑するだけに留めた。


《陰湿なガキがいた》

『(…陰湿?)』

《うんっ、ヴァイスが好きな匂いを発してたっ!》

《…食べるなよ?》

《食ーべーまーせーんッ!瑞季様と会ってからは人間は食べてないっ》

『(おぉー偉い偉い)』


思わずヴァイスの頭を撫でた。

妖怪のジェットもヴァイスも人間の肝を食べると妖力が増すらしい。食べなくても十分生きていけるしいので、安心だけど。

ベースにたどり着きドアを開けようとしたけど、中から陰湿な気と誰かが喋っている声がしたので耳を澄ませる。


「巫女さんが教室に閉じ込められるって事件があったけど。 怪しい事件かどうかについては、賛否が分かれてる」

『(この声は…麻衣?)』

「なぜ?」

「霊媒さんがね、旧校舎には霊なんかいないって言うの。閉じ込められたのだって、巫女さんのミスだって」

「……霊媒って、原真砂子でしょ」

「だけど」

「あいつ、偽物よ」

『!!?』

「はあ?」


陰気な気をまとっている女性は、どうやら麻衣の知り合いみたいだ。

数少ない私の友達を偽物よばわりして……「ちょっと綺麗なんで、テレビでチヤホヤされてるだけでしょ? 霊能力なんていないわ」………カチンときた。

――殴ろう、一発殴ろう!


《…落ち着け》


殴る気満々だった私を宥めたジェットに鋭い目線を送る。


《陰の気が段々増している》

『(なに!?)』


言われてみれば…嫌な空気が肌を撫でる。――気持ち悪い。


「瑞希さん?」

『!!』


いきなり声をかけられビックリして声の出どころを探すと、廊下の先からリンさんと渋谷君が歩いていた。思わず、喋るなと意味を込めて“しぃ〜”っとジェスチャーをする。

伝わったのか二人は疑問を浮かべながら近寄ってきた。 尚も中では霊の討論が行われている。


「だからあいつらにはわからないのよ。 ここには霊がいるわ。 それもすごく強い」

「その……いるとかいないとか、あるとかないとか、そういうのって……結局のところ、水掛け論なんじゃないかなあ」

「そう。 あなたもつまらない理屈を振りかざす、つまらない人たちの仲間ってわけね! いいわ。そう人は、そのうちにツケを払うことになるから」


ぐっと空気が重くなる。


「どうせ言っても信じないんでしょうけど、…その隅に女の子がいるわよ。……連れて帰らないように気をつけることね」


陰気女のその脅しの言葉に答えるように壁がキシりと鳴る。


――これ以上は…。 重い空気がこの校舎を覆う前にと、ベースの扉を開けた。 中にいた麻衣と陰気女の目が私に集中する。


『なにをしているの?』


それは陰気女に向けた言葉。


「瑞希先輩…」

「ここには霊が出るって話をしていたんです」

『幽霊が?』

「そうなんです!」


若干泣きそうな麻衣に目を向け、陰気女に目を戻す。

陰気女は昨日見た、負の感情に飲まれ始めていた女性だった。


『だからって、ここに来てはダメでしょう?ここは立ち入り禁止なの。 麻衣…谷山さんは助手だからここにいるけど、あなたはそうじゃないでしょう?』

「そうですけど…」

『なら早く帰りなさい。霊がいるいないにしても、調査の邪魔はしてはダメよ』

「じゃっ…あたし邪魔なんかしてませんっ! 霊がいるって教えているんですっ!!」

『でも貴女はその霊視? 霊視が出来るからと言ったって…仕事をしてお金を貰っている訳じゃないでしょう? 仕事に素人が口を挟むのは感心しないわ』

「なっ!」


注意をする私に、彼女はヒステリックに声を上げるが…彼女にはここに関わって欲しくない。 声音は穏やかに、だけど内容は厳しく諭す。

正論を叩きつけても、彼女を褒めても、どちらも過剰に反応するだろう、それなら厳しく言っておいた方がいい。――後に薬になるはず……


「あたしは親切に言ってるんですっ!」


だけど、彼女はそう叫んで教室を後にし、教室を出る際に渋谷君と衝突していた。





重い空気のまま麻衣は居心地悪そうに…渋谷君たちは機材のチェックに取り掛かる。


『あの…麻衣、…彼女は?』

「えっ、黒田さんですか?クラスメイトなんです。 黒田直子さんって名前なんですけど…霊感があるって有名なんです」

《すごかったな…》

《すごかった…》


ジェットとヴァイスの呟きに深く頷く。


――霊感があるならジェットとヴァイスが何処にいるのか当てて御覧なさいよ。

霊感があったって、いい事なんて何もない。――ジェットとヴァイスに出会えた事くらいよ……。

瑞希は自嘲気味に、けれど悲しそうに笑みを浮かべた。







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