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黒田さんから醸し出される負の感情に身震いしていたら――滝川さん達が遅くここに訪れた。


「お〜今日も集まってんのな」と、滝川さん。

「またアンタ来てんの」と、松崎さん。


松崎さんは黒田さんに目を止めると――…顔を歪めさせ、


「こんにちはどす」


ジョンはきょとんと横から登場した。


「何してんだ?」

「あ、えっと黒田さんが襲われたって聞いて…その時の映像を見てたの!」


怪訝な表情を浮かべた滝川さんに麻衣は慌てて説明し、リンさんがまた問題の映像を彼らに見せた。

嘲笑っていた滝川さんと松崎さんは……その表情をみるみる固いモノへと変えた。


「何よ…これ……」

「真砂子ちゃん、感想は?」


口を引き攣らせた松崎さんの横で、滝川さんは目を細めて真砂子にそう尋ねた。

それは――…答えを求めたのではなく…映像を証拠に霊がいるのだと認めさせる発言。 その発言に瑞希は何とも言えない表情を浮かべた。


「機械のトラブルですわ」


霊はこの旧校舎にはいない。それが判っている真砂子は顔を曇らせながらもはっきりと答えた――なのにも関わらず――…


「トラブル? いい加減に認めたら? ここには良くない霊がいるのよ」


黒田さんが真砂子に嘲笑った笑みを向けた。 真砂子は彼女に冷たい視線だけを返して、無言で室内を後にしようとした。


『……』


「逃げるの?」

《――チッ》


鼻で笑う黒田さん。

周囲を見渡せば――…みんな何も言わずに二人のやり取りを見守っていて、瑞希は眉間の皺を深くさせた。


「……逃げる? なぜ?――もう一度、中を見てきますわ」

「やっぱり自信がなくなったんだ? そう、今度こそちゃんと霊感を働かせたほうがいいわよ。――できるなら、だけど」

「……この校舎には霊はいませんわ」


そう悲しそうに言った真砂子はベースを後にした。

去り際、真砂子と目が合ったけど……瞳の中には悲しみと困惑でいっぱいだった。


『……』

《…瑞希……》


――御免…ゴメンね、真砂子……。私が臆病者だから…。


批難されている友達を世間の眼から守る事も出来ない未熟者。私は…拳を力強く握りしめる。

黒田さんにイライラしているジェットが心配気に声をかけてくれたけど、視線を床に向けただけで答えなかった。



「ショックやったですやろうか……」


ポツリとジョンが言った。


「当然だろう。 人には分からない真実が見えるから、霊能者なんだ。間違えたら、それはもう霊能者とは言えない」


ジョンに頷きながら渋谷君が答えているのが、耳に届く。


――イライラする。 一歩が踏み出せない私自身に、



「可愛い女の子には弱いのね」

「それは、どういう意味かな?」



____真砂子の能力を疑う彼らにも。



「ずいぶん彼女を庇うじゃない?」

「彼女の業績は僕も知ってるし、才能については高く評価している。 だから相応の敬意を払っているだけですが?」


渋谷君に突っかかる黒田さんに、その彼女を小バカにしている渋谷君。

ジョンはオロオロしていて、滝川さんと松崎さんは眉間に眉を寄せいていて――麻衣は黒田さんに共感しているのか目を泳がせていた。

誰も真砂子を信じようとしていない。…渋谷君は、どちら側でもないみたいだけど。

リンさんは我関せずで、映像を見ている。


「そうかしら?」

「あたしたちにも、もう少し敬意を払ってほしいものね」

「松崎さんのどこを、評価させていただければいいんです?」


会話に松崎さんが加わり――…室内が不穏な空気に。


「まあ、あのザマじゃあしょうがないわな。 除霊はできないわ、閉じ込められて悲鳴は上げるわ」

「あたしがいつ、悲鳴を上げたのよ」

「こないだ教室に閉じ込められて、悲鳴を――… 『いい加減にしてくれませんか』 ……瑞希ちゃん?」


言い合いを始めた彼らの言葉を遮って、瑞希は低い言葉を放った。


『貴方たちは何しにここへ来たんですか? 互いを罵り合いに来たんですか』

《瑞希…》


怯んだ滝川さんと松崎さんに、冷たい視線をやった。

冷気を纏い始めた瑞希に室内にいる全員の視線が集まる。


『顔を見合わせれば直ぐに罵り合って。 それに…黒田さん、貴女何がしたいの?プロでもないのに霊がいるいないなんて発言して現場をかき乱して、そんなに注目されたいの』

「――なッ!?あたしはっ」

『貴女は何を言おうが自由でしょうね、真砂子みたいに責任が問われるわけでもないんだから。 それから、真砂子が霊はいないって発言しているのを信じる信じないは皆さんの自由だと思いますが……真砂子の霊視を疑ってかかって彼女を傷つけるのは止めてくれませんか。仮にも同じ敷地の人間のくせにっ、罵って疑って、実に醜い! そんなことをする暇があったら自分の能力を駆使して仕事をなさったら如何ですか?』


憤慨している黒田さんに、松崎さん。

渋谷君や麻衣、リンさんに滝川さんとジョンは――静かにキレた瑞希に目を丸くした。


「そう言うあんたも素人じゃない!」


負けじと突っかかって来た松崎さんを無表情で見つめる。


――嗚呼…、だから人間って生き物は……


『…ええ、そうですね。――ですが、真砂子は私の友達です。彼女を傷つけるなら……誰であろうと許しません』

「瑞希さん…」


揺るぎない瑞希の言葉に松崎さんを含む全員が息を呑み、不気味なほど室内は静かになった。


『……。真砂子が気になるので、様子を見て来ます』


唯一…人と距離を取っていると知っているリンさんが気遣いって名前を呼んでくれて、彼をチラッと見―――そしてリンさんと渋谷君に一言残して、胸糞悪い室内を後にする。



――あ。


『そうそう、黒田さん。真砂子の事にしろ――…自分の言ったことやしたことに責任持ちなさいね。 これ以上、何かあれば…私許さないから』

「っ!」



__嫌い。


___嫌い、嫌い…。



言外に松崎さんにイタズラした事も、カメラの件もお前だろとそう告げた。

これでもまだ彼女が懲りないならば…もう私は知らない。

瑞希は栗色の瞳に冷気を宿して、黒田さんを一瞥して室内を後にした。







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