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※箱云々の話が終わった未来の話になります。
※若干ネタバレ。
※何歳で結婚するのかまだ決めてなかった為、一つの未来として捉えて下さい。
(本編で矛盾が出るかもしれないので。苦笑)


□□□


今日は休日〜。

眞魔国の王城で働く者には一斉に休日、とはいかぬが…週休二日制ではなかった為、私とユーリで考えて決められた休日を作った。

とは言え、華の日曜日――に休める者は国民や学生など限られてる。やはり城遣えの人達は、これまでと変わりなく交代制…うぬぬ頑張ったのだが、こればかりは揃ってお休みを取るのは出来ぬと判断されたのだ。

致し方ない。その日に城攻めとかされたら、全滅だもんな。

最近はずっと平和故、グウェンダルに吠えるように反対されてユーリと共に、そうだったそうだったと己達の立場を再認識したのは、記憶に新しい。


――まあとにかく、幹部達は揃って休日なのだー。

的確な助言をくれる宰相のフォンヴォルテール卿グウェンダルも、末弟のヴォルフラムも、王佐であるフォンクライスト卿ギュンターも、各々の城へ帰省していて今は城内にいない。


『(今日はなにして過ごそう)』


魔王であるユーリが城下へ村田と遊びに行くと申しておったから、護衛であるコンラッドも不在だ。

二人の休みが重なれば、彼とデートしたりのんびりと過ごすのだが。う〜ぬ暇である。特に予定がない日もあってもよいかな。

地球にいれば、勉強や家事やバイトで時間があっても足りぬ生活だし、こちらの世界はこちらの世界で執務やらで日々仕事に追われる生活故――…のんびりと一人で時間をつぶすのもいいかもしれぬ。

こんな日があってもよいかなと思える程、平和になったものだ。全部ユーリのお陰で。感謝してもしきれぬな。あ、あと村田も。

ユーリや村田が耳にしたらサクラの協力もあったからだよ!なんて言われそうな事を考えながら、土方サクラ――を改めウェラー卿サクラは、雲一つない空の下に顔を出した。


『やぁ、ちょこっとぶり』


お日様の光を気持ちよさそうに浴びている愛しい旦那様を想って作られたその花達に、自然と笑みが零れる。

高校生だったあの頃、渋谷有利と共に国を守ろうと迫る危険に立ち向かって、やっと訪れた平和。中々大変で。私達は苦労したのだなと振り返った今ではふとそう感じる。

激動の時代に飛ばされ、このたくましくも美しい花の名前を知り、彼からの溢れるほどの愛を知りながらも見て見ぬ振りをしておった未熟だったあの頃。今だから思う、子供だったと。

己がどんなに冷たい言葉を吐いても、その気がない素振りを取っても変わらず想いを寄せていてくれた彼。

熱くて、真っ直ぐで。息を吐くように当たり前だとばかりに居心地のよい場所を作ってくれた彼を。彼の想いを蔑ろにして。その罪悪感に時たま押しつぶされそうになったり。いろんなことがあった。


『君達はいつ見ても可愛くて綺麗だな』


婚約者だった彼への想いを素直に打ち明け、順調にお付き合いして。その後、夫婦になった。

彼と一緒になれば幸せになれるだとか、愛しているから彼を己が幸せにするだとか、そんなんじゃなく。彼とだったらどんな苦労も苦労だとは思わない、地獄の中だろうと一緒に生きていけると思ったから共になった。

サクラの呟きの直後、風に遊ばれて揺れた青の花弁。己に答えてくれたかのように感じた。

彼と一緒になってから愛情が薄れるどころかより大きく育ち、生活の一部に彼の姿が組み込まれて。ふとした瞬間にそれを感じ、くすぐったくも幸せで。

好きが降り積もって愛に変わった――…きっとこの先、家族愛も加わるだろう。それを想像しまた幸せだと感じるのだ。


この感情をくれた夫が愛おしくて、彼がおらぬ生活は考えられないほど――…私はコンラッドを愛しておる。


水を与えすぎてしまえば枯れてしまう故、数日に一度訪れるこの裏庭の一角は、私のサボり場でもありコンラッドとの思い出の場所でもある。




「ぁ、漆黒の姫様だ!」

「!姫さまっ、おはようございます」


ジョーロを片手に屋根の下へと歩く。

天気がいいこんな日は、洗濯物もすぐに乾くであろう。くっきりと地面に影が出来ているのを眺めながら、ふとそんなことを思った。

とても過ごしやすい一日になりそうである。


――あーあ。このような日に一人で過ごさなければならぬなんて、つまらーぬ。誰か暇な奴おらぬかな。

ヨザック辺りとかどうだろうか。……あやつそもそもこの国にいなさそうだな。いてもあれか、おかまバーとかに働きに行ってそう。つまらぬ。

いつもは私のお休みの日も、こっそりと護衛がつくのだが。気配を探っても山吹隊の者は近くにおらぬ様子。

はて、珍しいこともあるものだな。ホントの意味で、一人で過ごさねばならぬらしい。

コンラッドがおらぬから、ユーリの元へ直撃も出来ぬし……とそこまで思考して、思考の中心がコンラッドによって構成されている己に気付き、一人でくすりと笑った。


『ぬ。おはよう』

「今日はいい天気ですね!」


朝からお姿を拝見できて、尚且つお声をかけることに成功したっと歓喜のあまり震えている兵士二人の心情を知らぬ彼女は、数分前に考えていた内容にこくりと同意した。

内一人の兵士が、敬礼した後あたりを見渡し御一人ですかと首を捻った。


『うぬ。珍しいことにな、一人だぞ』


残りの兵士が、あっと思わずといったような吐息と表情を見せた為、今度はサクラが首を捻る。

隣の男性が馬鹿っ!と、しまったと呟く兵士を小突いていたのを見て疑問に思ったが、深く追及せず、彼女はそこで彼等と別れようとした。ジョウロをメイドに返さねばならぬからだ。

だが、質問を投げかけられた故、その場に留まった。


「漆黒の姫様っ!失礼を承知でお尋ねしたい事が御座います!」

『?』


小首を傾げれば、声を出した男の横から質問を投げかけられた。

自然と視線もそちらに移る。呼び止めた兵士も文句はなさそうな表情だった為、横の兵士を見つめた。


「姫様はウェラー卿のことをっ、」


常識で考えれば、黒を身に宿した姫にこんな風に言葉を交わすだけでも、無礼だと罪に問われてもおかしくはないのに、彼女は最後まで聞いてくれている。それが嬉しくて同時に、表現できない程の美しさを前に、二人の頬が上気していく。

魔王陛下もそうだが、漆黒の姫様もお人好しで見目麗しく、身分や見目を鼻にかけることなく、民や下の者にも分け隔たりなく接してくれる。

すれ違う度に、声をかけてくださる。その度に自分達は、素晴らしい御人に仕えているのだと痛感するのだ。


「バカッ、姫様もウェラー卿であらせられるぞ」


最初に尋ねたい事があると言った彼に、顔を真っ赤にさせていた男性が背中を叩かれ、咽た。

はっと、顔色を変えた兵士の一挙一動がなんだか面白くて、噴き出すのを堪えた――そんな私の努力を知らぬ彼等は、姿勢を再び正して、話を続ける視線を寄越したので。彼が言った他人ごとではない魔族の名前に、口を開く。


『コンラッドがどうかしたのか?』

「はっ。漆黒の姫様は、ウェラー卿コンラートの何処に惹かれたのでしょうか」

『――…、は?』


まさかの質問に、短い吐息が出てしまった。

それをどう捉えたのか、二人は身振り手振りで、私達がいつまでも幸せそうだから一国民としても嬉しくて、コンラッドの何処を好きになったのかずっと気になっていたのだと口々に言う。

尊敬しているお二人だからこそ、どこに惹かれ合ったのか知りたかった、と。

剣士として尊敬しているコンラッドを夫に持っている私が幸せそうにしているのが、とても嬉しくて鼻が高いのだとか。

赤面しながらもはっきりと心の内を音にしている二人を見つめ、ぽんっと脳裏にコンラッドの顔が浮かぶ。


『そうだなー』


初対面の時は、いきなり抱き着かれて、今にも泣きそうな表情だったから。

その後の爽やかな笑みを見せられても、正直取り繕っている笑みにしか見えなかった。

私にとっては同級生の護衛以外のなんの感情もなく、コンラッドを含め皆が泣きそうでそれでいて再び逢えて嬉しいと笑うのが理解できなくて。正直、得体の知らない世界だと思っていた。

だが、それは最初の頃だけで。

生前も、生まれ変わってからもずっと弱みを見せぬように生きていた私だったのに。

コンラッドの前だと不思議と等身大でいられて、普通の女の子としていられる唯一の時間を彼だけがくれて。コンラッドと過ごす時間は楽しくて居心地がよかったから、想いを寄せられて想いが募るのに時間はかからなかった。

認めるのに時間がかかったが。それは私が頑固だったからだと――正直に認めよう。



『う〜ん…』



コンラッドはいつも笑顔だ。

あれは人付き合いにおける処世術なのだと――…いつだったかグウェンダルとヨザックが教えてくれたのを覚えている。驚きよりも納得の方が強かった。

コンラッドは本音や弱みを表に出さぬのを知っておったから。

それに私は過去へと飛ばされ、ジュリアと出会い、コンラッドと再会して。

私が過去のコンラッドに、亡くなった人は二度死ぬのだと生きている者が忘れてしまえばホントの意味で死してしまうのだと、話したのをずっと覚えていたらしくて。

いつか巡り合うと信じて、ユーリと私の為に、ジュリアを真似て笑顔の練習をしていたのだと気付た時は、莫迦なヤツだと泣きそうになった。とても愛おしく感じ、その瞬間だろうか、嗚呼この人の側でずっと支えたいと放っておけぬと思えたのは。





――どこに惹かれた、か。


困ったように笑う夫も、嬉しそうに笑う夫も、はにかむ夫も、愛おしいのだ。

改めてどこに惹かれたのか問われると、答え難い。惹かれた、とは、好きになるきっかけになった一面を聞いているのだろう?自己犠牲する一面も含めて、好きなのだから、答えに詰まった。

日常生活のささいな瞬間にも、幸せだと思えるのだが。それは、答えになるのだろうかと悩んだわけで。

好きだと気付かされた時には既に、彼がおらぬとダメになっておったから、答えられぬのだ。

全部ひっくるめて好きで、身を焦がすような恋から、包み込むようなまたは包み込まれるような愛へと変わったのだ。恋に恋していた時代とは違うのだ。今更なことを聞かれても対処に困るぞ。


なんで結婚したのかという質問だったら、答えられるのだが。



『内緒だ』


私は疲れたように笑う彼も知っている。

外では皺ひとつないシャツを着こなす完璧な彼が、ラフな格好でくつろぐ姿も疲れた表情を見せてくれるのも、部屋の中だけで。つまり、私の前では見せてくれる――…それがくすぐったくて幸せだと思えるのだ。

考えれば考えるほど、次々と出てくるコンラッドの一面を、第三者に教えるのがなんだか勿体無く思え、内緒だと笑って誤魔化す。

兵士の二人と別れてから、実はジョウロを返した際にラザニアからも同じ質問をされたから。またも内緒だと曖昧に答えて。そしてまた別の人に、コンラッドの何処に惹かれたのか聞かれた。


『貴様もか』

「え?」


眼下でふんわりと笑うブラウンのふわふわの髪質の持ち主――プティ・マロンは、くりくりとした目を瞬きさせた。

質問した答えをもらえず、マロンは頬を膨らませて、また訊いた。


「サクラ様は、コンラート閣下の何処を好きになられたのですかー?」

『今日は、会う人会う人にそう聞かれるのだが…なにかあるのか?』


城内の者達が何か企んでおるのではなかろうかと、訝しむのも致し方あるまい。

誰かに会う度に訊かれるのだ、知れず疑いの眼になるというもの。疑いたくはないがな!お主等、何か企んでおるな…さてはコンラッドの手先か?!


「いやですわ。サクラ様、私なにも企んでなんていません、純粋な疑問でしたの」


ふ〜んと相槌をしたら、また何処が好きなのか聞かれて、内心お手上げ状態だ。


「私がお聞きした時、サクラ様コンラート閣下のお姿を思い浮かべてらしたでしょう?幸せそうなお顔をしておりました」

『……』

「サクラ様が幸せそうに笑って下さると私も皆も幸せなのです。特に…戦時中のお二人を知る者は、揺るぎない幸せを目に見える形にしたいと思っているのかもしれません」


そう言われたら答えねばならぬ気にさせられる。不思議だ。


「変わらず新婚さんのようなラブラブさで、みんな見習いたいのですよ〜」

『新婚さん…』

「はい!いつ見ても羨ましいくらいラブラブですわっ!」


見ていて微笑ましくて、お二人を見てるだけで幸せな気分になります。そう自分の事のように喋るマロン。

私は心の中で、沢山の人にそう言ってくれる私とコンラッドは幸せ者だなと一人ごちた。








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