キス!キス!キス! [4/4]
魔法少女連載:番外編
※一応付き合ってます。
※上級生設定です。
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私は、お昼を食べに食堂に向かっていたはずである。
なのに目の前には、表情の読めないリオン・オルコットがいる。
――ん?
あまり表情が変わらない彼にしては、目が活き活きとしているような…気がする。試験前や図書館に新しい本が届いた時みたいな活き活きさだ。
レイブンクローのリオンにとって、試験や小テストなどは、培った知識が身についているか確認できる素晴らしいものなのだそうだ。勉強が嫌いな私の脳には、リオンの感情を理解するのは困難だった。
出会った頃はショートヘアーだったプラチナブロンドは、背中まで伸びていて。
成長を遂げたリオンは、骨格も、ジェームズやシリウス達と並ぶと華奢に見えるが、私と並ぶとがっちりとした体格なのだからやっぱり男の子だ。……いまだに女装していても、だ。
「ぼく、知りたいことがあるんだ」
『へェ〜それって私に関係してるの?』
「そうだよ、この商品がホンモノなのか確かめたいの」
知識欲に忠実なリオン。え、ちょっと待ってー。商品を確かめるって、何さ。私実験台にされるの?
なんで私が選ばれたのー。癖がある性格の持ち主のリオンにも、ちゃんと友達いるのに。なぜに私。あー実験体に逃げられたんだな、なるほど。
「ちょっとじっとしてて」
えっと思った瞬間に、間近な距離でリオンに顔を覗かれて。唇にひんやりとした感触を感じた。
満足そうに離れていく彼の右手には、男の子には似合わない真っ赤なリップグロスが。パッケージは苺の柄。なかなかにファンシーな物を持ってらっしゃる。
リオンがグロスを持っていても違和感を感じないほどに、私も自分で思っている以上にリオンに毒されているらしい。
『え、それ塗った?』
「うん。うん。似合ってるよ」
『あ、ありがとう?』
「シルヴィってば化粧っ気ないから、勿体ないよね。こうして見るとちゃんと女の子」
『ちょっとー失礼じゃない?』
頬がぷくっと膨れる。
リオンが、「でもぼくには効果なかったみたい」口を開けてそう言うから。リップグロスの効果とやらを思い出した。リオンに効果がなくとも他の人には効果が出てしまう商品なの?魔法って怖い。
ちょうどその時、前方にジェームズの姿を二人して捉えて。三人の視線が交差した。
近付いてくる不機嫌そうな彼の様子が、あっコレ面倒な展開になるやつじゃない?っと、脳内のめんどくさがりな私が呟いた。
というのに、リオンはジェームズから逃げるように、「これもあげるよ。バレンタインも近いから、ちゃんと役に立ててね。じゃあ頑張って、お幸せに」なんて言って逃げやがった。ほどなくしてやって来た我が恋人のハシバミ色に見詰められて乾いた笑みが零れる。
――ジェームズってば、嫉妬深いから。たまにこんな顔をする。
「なにしてたの」
『お昼ご飯食べに行く途中で会ったんだけどねー。実験体にされた、みたいな』
「……くっついてたみたいだけど、キスとかされていたわけじゃないんだ?」
『えっ、誤解だよ』
それなんて誤解!
私もリオンも性別を超えたおともだちである。リオンが中世的で且つ女装壁があるからそんな感じにならないし、心配し過ぎ。
顔を左右にふるふると降れば、少し上がっていたハシバミ色の瞳がいつもの優しさを取り戻したので、人知れずほっとした。あれ?っと今度は不思議そうな双眸でこちらを見るから、私も小首を傾げる。
「唇てかてかしてる…それに赤い?」
『あ、グロスだよ』
彼の疑問を解決してあげたら、聡い彼はリオンとなんで近い距離だったのかまで紐解いてしまったっぽい。
途端に寄せられた眉間の皺に、また乾いた笑みで誤魔化してみる。
『あ、そういえば飴ももらったんだよー』
去り際に手の平に乗せられた物体は、リップグロスとお揃いの苺柄で、ファンシーな包み紙。
ころんと手渡された飴を見て、ジェームズはなるほどと一つ頷き、不敵に笑ったではないか――…え、え?なんでそんなあくどいお顔をして身を乗り出していらっしゃるの。
『ちょ、なに。え、』
「この商品、僕には無意味かも。だって――…」
渡した飴を口に入れたジェームズから逃げようと下がるが、背中が壁に当たり逃げ道が断たれた。
ゆっくりと近寄る彼を、茫然と受け入れたシルヴィは知らない。
リオンが持っていたリップグロスは、最近女の子達に人気な商品“彼にキスさせたくなる魔法のグロス”で、飴も“キスがしたくなる不思議な飴”なのだと。
確かめる術がなく持て余していたリオンの企みに気付けなかったと後悔するのは、数日後のことで。
『んむっ、……、』
ジェームズは、口内に広がる甘ったるい物体を、彼女へと舌を使って移動させた。
薄っすらと瞼を開ければ、吃驚として瞠目する紫暗色が見えて、ぞくりとめちゃくちゃにした衝動に駆られる。
彼女の柔らかい唇を堪能しながら、まるでチョコレートのようにすぐに溶ける飴を、互いの舌で味わって転がす。わざと吸って、音を立てた。
教師に目撃されれば、処罰があるだろうけれど、嫉妬心と官能的なシルヴィの瞳を見てしまえば、止まらなかった。
『っ、ん、んんン、はっ、ん』
塗られたリップを舐め取り、貪るようなキスのせいで、人工的な色じゃない血色の良くなった唇に、軽く触れて離れた。
すかさず潤んだ目で睨まれても、痛くも痒くもなくて。逆に煽られる。
もう一度したくなるのをぐっと我慢して、ぺろりと自分の唇を舐めた。……甘い。苺の味がする。
『っ、いきなり』
「僕はいつだってシルヴィに欲情してるからね」
カッと赤面するシルヴィが可愛くて。
我慢していたキスを、再開してしまったのだった――…。
キス!キス!キス!(これは没収)
(なんでー?せっかくリオンがくれたのに)
(他の男から貰った物を身に付けないで。それと)
(う、うん?)
(僕以外の男を誘うなんて以ての外だから)
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