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朝礼ギリギリに登校して。


「アンズ!おはよっ」


担任の先生が淡々と朝礼を終わらせた後に、昨日一緒に帰った友人がニマニマ笑いながら、私の席へやって来た。

彼女が何を企んでいるのか、中学から六年になる付き合いの私には簡単に想像がついて、力なく笑う。


『おはよー』

「なんだか暗いなあー。ねっ!ねっ、昨日言ってた、数学と英語の範囲写させてっ!」

『いいよー』

「お願いっ!この通りっ!いやあー昨日やろうとは思ったんだけど……って、ェ?え?今いいって言った?」

『うん。言った。いいよ、好きに写して』


目を見開く友人に、二冊ノートを手渡した。

数学は二限目で、英語は四限目だから、一限と三限に内職する気満々なのだろう。授業前に返してもらえればそれでいいので、渡した。内職してて先生に怒られても私は知らんぞ。


「どうしたっ!宿題には厳しいアンタが、そんな事言うなんてっ!どうしたっ!何があった!?」

『…うん、まずそのテンションがキツい』


机に伏せて力なく見上げるアンズに、彼女は眉を寄せた。手元には、ちゃっかりと手渡されたノートを二冊握りしめて。


「熱は…ないね。え、マジでどうした」

『ちょっとね、昨日大きな拾い物をして、朝から疲れてるの。後でゆっくり話すからさー今日、うちに泊まりに来てくれない?私だけでは、お手上げでさー』

「…………何。人の名前を書いたら死んでしまう某ノートを拾ったとか言わないでよ」

『…………それだったら、燃やすだけで厄介払い出来るけど、こればかりは…どうにも。放課後、買い物付き合って欲しいんだ』


「いいけど…親に許可取らないといけないから、ちょっと待ってて」と、言ってくれた彼女に、うんと頷く。

『賄賂はそのノート二冊ね』と、答えたら、「ちゃっかりしてんな!」と、笑われた。ちゃっかりしてるのはお互い様だよ!


どれだけ疲れていても、無情にも授業は進められて。一限目は社会だったから、ノートを取るのも必死だ。

シャンクスの胃袋はブラックホール並だから、友達にも夕飯を作るの手伝ってもらおうと、放課後の事で思考を費やした。

今日は、昨日と違って晴れてるから、私も彼女も部活がある。

遅くなるのは心配だけど、部長である私が部活をサボれないので、予め遅くなるって言っておけばよかったかな。いや、そこまで心配するほどシャンクスは子供じゃないし……うん、大丈夫。だと思いたい。

待たせすぎて、空腹で倒れてないといいけど。

もう面倒臭いから、今日はカレーにしよう。まとめて沢山作れるから楽だよね、カレーって。サラダとか作らん、もうカレーだけでいい。カレーオンリー。

今頃シャンクスが何をしているのか知らない私は、頭痛の原因であるシャンクスの事を考えながら、授業を受けていた。


ヤツの胃袋のせいで、お弁当を作る暇もなく。今日の私の昼ごはんは、売店のパン。

美味しいんだけど…太るのが難点だよねー。なら菓子パンを選ぶなって言われそうだけど、調理パンよりは菓子パンの方がカロリーが低い気がする。……勝手な私のイメージだけどね!

言い訳を並べてみたけど、菓子パンの方が甘くて魅力的だったのだ!いいじゃないかあー!




 □■□■□■□



「せんぱ〜い」


我が校の写真部は、作業場と、フィルムで撮影されたものを現像する暗室がある。

最近は、デジタルの一眼レフが浸透してるからか、今いる作業場には、立派なプリンターが二台、パソコンが四台あって、中々に楽しい。インターネットに繋がってるから、暇つぶしも出来る。たまにサボる時にここへ来てるのは、先生には内緒だ。


「今度の特集、サッカー部らしいです。今、新聞部に依頼されましたー」


サボる際、ここを使うのは、写真部くらいなもんで。同じくサボる気満々の後輩とばったりなんて事も多々ある。

その良く鉢合わせする後輩に呼ばれて、顔を上げた。


『あー…試合が近いんだっけ?』

「はい。どうします?試合の日は、今度の日曜ですけど……」

『もっと早くに決めてほしいよね』

「仕方ないですよ、新聞部今忙しいみたいなんで」


言われた内容に、思わず唸る。

校内新聞に力を入れている新聞部は、たまに写真を私達に頼むのだ。かかるお金はあちら持ちなので、写真の腕を上げる為に、新入りを行かせたりするけど、サッカーは対象が動く上に、観客が多いので撮り辛い。

それを言いたいのだろう後輩も眉を寄せている。彼女は友達が新聞部にいる為、あちらさんの状況にも詳しい。

今度の特集の話は、新聞部の部長から聞いていたが、日程はまだ決まってなかったのだ。恐らく、明日くらいに私の元へ詳しい話がくるだろう。因みに、今日は火曜日で明日は創立記念日で休みだ。


『なら、私と杏奈で行こうか。他に行きたい人いるー?』


教えてくれた一つ下の後輩――杏奈と、二人だけだと心もとないので、周りに視線を走らせれば、一年の後輩が手を上げたのを視界の端で捉える。うん、彼なら大丈夫か。真面目だし。

二人には、決まったら連絡すると答えて、各々作業に戻った。

予め早く日程が決まってれば、日曜に予定をいれる後輩は少なかっただろうに。命令は好きじゃないから、強く言えないしなーこんな時、同学年の生徒が写真部にいてくれたら……。


――何で三年生は、私だけなんだああああああああ!!!!!!!!!!



『まあ、救いなのは我が部内に、ミーハーがいない事よね〜』


たまに運動部との出会い目的で、我が部に入部する人がいるけど、休日が潰れたり地味な作業に嫌気を差して、邪な目的な人はすぐに辞めていく。

チアリーディングとか吹奏楽部とか、他にも運動部と何かしら関わり合いがある部活も、ミーハーな彼女達に人気だが、運動部並にキツイからか最終的に写真部に流れ着くのだ。マジ止めて欲しい。

運動部よりも動かないけど、それなりに活動的なんだからー。馬鹿にしないでよー。


『お』


今日も特に大事な仕事はなかったので、後は副部長である杏奈に任せて、私は先に上がって。悶々と心の中で、自分自身に愚痴っていたら、ふと優雅に咲く紫陽花を見付けて、足を止めた。

梅雨時期だからなのもあるけど、誰かが手入れたわけじゃないだろうコンクリートで塗装された道にポツンと咲いている。

部費を稼ぐ為に、晴れの日は、カメラを首から下げて歩く私は、カメラを構えてぱしゃりと撮った。


――どこにシャッターチャンスが落ちてるか分からないのだー。

廊下とかに飾る写真を毎月校長先生に渡して、校長が気に入るものがあれば、部費が増えるのである。まあ普通は、部費って会費として生徒から貰ってるんだけどね。足りないから。


思うようなアングルで写真を撮れて満足気に微笑んだ私が、いつもの習慣で公園に立ち寄ろうとしたら――…



『―――……ぁ、』


私の大好きな位置から街並みを眺めてるシャンクスがいた。

昨日は無理だったけど、今日は夕日を撮ろうと思って、るんるんで見れば先客が。しかもシャンクス。

望んでいた通り、沈む太陽を見、こちらに背を向けてるシャンクスを見つめる。見惚れたのだ。そこから眼球が動かなかった。

射し込む茜色に溶け込むような赤髪がキレイで、見惚れたのだ。赤と茜が一つに溶け込むようで、思わずカメラを構えれば――…。


『!』


視線を感じたのか、切ろうとした瞬間に彼が振り向いて。目を見開いたかと思えば、シャンクスはニカッと歯を見せた。

レンズ越しに怯んだのは一瞬で。夕焼けを背景に笑うシャンクスがキレイで、連写した。


「おう。今、帰りか?遅ェな」

『…………』

「おい、聞こえてるかー」


意識を奪われた自分に気付いて、シャンクスの気の抜けた声で我に返る。

年下のコイツに見惚れてたって自覚してるだけに癪で、ふんッと鼻を鳴らして、『聞こえてるわよ』って言ってやった。


『そこで何を……そこから見える景色、綺麗でしょ』


そう言えば、公園のベンチの上に飛ばされたのだと言っていたなと途中で思い出して、言葉を変える。うん、私って優しい。


「あぁ。アンズの部屋で、夕日の写真を見付けて、おれもこの眼で見たくて来たんだ」


アンタ私の部屋に勝手に入ったの!って言おうとして唇を中途半端に開いたが、続けて聞こえたシャンクスの綺麗だとの声に気を良くして、『そうでしょ、そうでしょ』と胸を張った。

私の写真の良さが分かるなんて、それも私の大好きな夕日の景色。意外だがシャンクス話のわかるヤツじゃないか。


「ここは平和だなー」


気分が良くなった私だったが、次に聞こえたその言葉に、そうだったと思い直す。

シャンクスは一日開けて、ホームシックになってるかもしれないんだった。


「……アンズは夢ってあるか?」

『ゆめ?』


続けられた話題は、私が考えてたものと違くて、拍子抜けする。

隣りをチラリと見ると、彼は沈む太陽に目を向けたままで。何が引っかかっているのか私には考えもつかないけど、その問いがホームシックになる原因に繋がってるかもしれないと、質問に頭を使う。


――夢、か〜。

これといって夢はない。焦って見つかるものでもないし、大学に進んでゆっくりと見つけようと思っていたので、真剣そうな雰囲気のシャンクスの望む答えはあげられそうにないかも。

シャンクスはこの世界は平和だといった。

彼の生きる世界は、もしかしたら日本よりも殺伐として、明日を生きる余裕もないそんな過酷な環境なのかもしれない。なら私の答えは、なまぬるいだろう。


『ないよ』


てん、てん、てん、まる。


「え。ないのか」

『そう。これからゆっくりと見つけるの』


やっぱり私の答えはお気に召さなかったのか、またも沈黙が走る。


「そっか、そっか。なら…おれも、これから探せばいいのか〜」

『…は?アンタは海賊なんでしょ?』

「うん、そうだぜー。だけど最近、乗ってた海賊船が潰されちゃってさア」

『うん?大丈夫だったの?』

「船長は海軍に……」



処刑された。

軽く言われた内容に、思考が停止する。


「でもそうだよなーおれって海賊だから悩む必要なかったな!」


シャンクスにニカッと笑われて、私も笑おうとしたけど失敗した。

船長が処刑って…私の環境に当てはめると、担任の先生が警察に捕まるようなもんかな……いや、それとも親しい友達…?ぐるぐると考えてみたけど、しっくりくる答えは出なかった。


『シャンクスは何で海賊になったの?その船長さんが好きだったから?』

「う〜ん?自由になりたかったってのもあるが…一番は、この眼で世界を見たかったから!」

『壮大な夢だね』

「海賊はいいぞ」


キラキラと笑うシャンクスを見てると、夢を持って生きるって何だか眩しくて羨ましい。

知り合って一日とも経ってないのに、真っ直ぐ生きる姿勢がシャンクスらしいと思って、ふっと笑う。私が下手に励まさなくても、シャンクスは真っ直ぐだ。


『帰ろうか』


アンズの自然と出た柔らかい笑みに、シャンクスは硬直したのだが、当の本人は全く気付かず。

固まるシャンクスの手を引いて、当たり前のように帰ろうと言ってくれた。

知らない内に、じわりとくすぐったい熱がシャンクスの胸の中に広がる。





世界って何ですか。

(ならさー。シャンクスが――…)
(うーん?)
(船長になればいいんじゃない?)
(!)



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