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「シルヴィさんは…」
『ん?』
シリウスにまで馬鹿にされているような溜息を貰って、ムッとする私に、ハーマイオニーがおそるおそる声をかけてくれたので、小首を傾げた。
怯えられてるのかな…と思って、出来るだけ柔らかい笑みを浮かべる。
「すっ好きな人とかいないんですか?」
『好きな人?』
「私も気になる!」
「そういやーシルヴィその頃好きなヤツとかいたのか?」
リリーとシリウスも喰い付いて来たので、ちょっと驚く。そんな喰い付く話題か?
『いないよー。あーでもリーマスが一番好きかな(常識的だし、甘い物の話できるから)』
「え、ボクっ!?」
「リーマスお前…」
特に深い意味はなく、悪戯仕掛け人のメンバーの中で選ぶとすればーって何気なくリーマスの名前を口にしたんだけど……。
選ばれると思ってなかったリーマスが目を白黒させている…のは、分かるんだけど、何でシリウスが「アイツに知られたらお前…」って、言ってるの…?え、アイツって誰。
ハリーはシルヴィの返答がショックで、ロンと質問したハーマイオニーは、複雑そうに笑みを浮かべて、頬が少し引き攣った。
『え、もしかして…』
おそるおそる目を見開いたら、シリウスとリーマスは、はッと表情を変えたけど、
『リーマスってば、結婚してたりするの?』
っと、言ったら、リリーと私を除いた全員が肩を落として頭を抱えた。
そのリアクションに、とりあえずリーマスは結婚してないのかなーって、考える。リリーと顔を見合わせて小首を傾げたけど、やっぱり答えは分からない。
ずっと笑ってばっかりだったシリウスが、ゴホッと一つ咳をし、私をリリーに真剣な顔で見つめて来たので、私もリリーも無言で彼を見つめる。
「俺がここにいるのは、過去のシルヴィとリリーに言いたいことがあったからだ」
「言いたいこと…?」
「ああ。ハリー達にも会わせてやりたかったってのもあるが……」
そう言われて、ハリー達三人を見遣って、シリウスに視線を戻す。
妙に真剣な雰囲気が大人の三人から漂っているのを肌で感じて、居心地が悪い。
「シルヴィとリリーのお蔭で、今の俺がいる。今の二人からして未来の話だけど、今の二人にお礼を言いたかったんだ。――ありがとな」
茶化していい雰囲気じゃなく、重々しい空気とシリウスの言葉に私もリリーも押し黙る。
――シリウスが言ってることって……無実が晴らされたことを言っているの?でも、それだと、なぜ私とリリーにお礼を告げて来るのか分からない。
否、それよりも、リリーはこの未来では生きている?重大な疑問に辿り着いて、私は、はッと顔を上げた。
そうだ。ここにセブルスが来た時、未来の私とリリーはジェームズとショッピングに行く予定があったと言っていた。ってことは、リリーもジェームズも生きているんだッ!
私の知らない未来だけど、二人が生きているという事実に、心が歓喜した。それだけで、ここに来た意味がある。
「シルヴィ」
『ん?』
顔を輝かせるシルヴィを見て、シリウスは彼女の名を呼んだ。顔を上げた彼女の紫暗色の瞳を真っ直ぐ見据える。
「お前は普段、面倒くさがりのくせに、目的を見付けるとそれに没頭するヤツだ」
その通りなので、こくりと頭を縦に動かした。
「だがな…何かを成し遂げるときに…独りで立ち向かおうとするな。いいな?」
『……それって』
このタイミングで、その科白。それって私が、独りで何かに立ち向かったってこと!?
私が何かに抗うとしたらそれは……私は、思考しながら、隣に座っているリリーとハリーの顔を見つめて、そうなのかと悟る。この未来の私は逃げるのを止めたのか。
「リリー、シルヴィが怪しい動きをしないか目を光らせてくれ」
「え、えぇ…」
シリウスにそう言われて戸惑うリリーを余所に、私は思考に意識が取られていた。
「シルヴィ、リリー。僕も君達にお礼を言いたい」
「なに…を?」
「二人のお蔭で、僕は楽しい学生生活を送れた。――ありがとう」
この時代の二人に改めてお礼なんか言ったら、怒られるからね、と言って笑うリーマスに、私とリリーは何だか分からなかったけど、頷いた。頷かなきゃいけない気がしたから。
シリウスとリーマスの懐かしむような微笑みに、年月の差を感じて、少し悲しくなった。早く“今”の二人に会いたい。
「シルヴィお前の好きなように動け。僕はお前に救われた」
『――ぇ…』
彼等は私の知っている彼等だけど、私の知らない一面のある彼等だ。それは凄く寂しい。
顔を曇らせるシルヴィに、リリーと話していたセブルスまでもが、彼らしくない事を口にしたので、私は思わず大人になったセブルスと顔を凝視した。
あまりの驚きに、セブルスが何を言ったのか理解出来なかった。じわじわと脳に言葉が届いていく。
「リリーのこと、ありがとう」
『ッ!』
にっと口角を上げたセブルスの笑みに、目を丸くした途端――…。
ボフンッ「シルヴィ!」
派手な音と共に、煙に包まれたかと思ったら、耳慣れたジェームズの声が聞こえた。
「けほッ」
『っ!?』
「エバンズッ!シルヴィ」
「も、どって来れたの…」
『……みたいだね』
未来へ飛ばされる前にいた廊下から数メートル離れた場所に、私もリリーも立っていて、戻って来れたとほっと息を零した。
「よかったー。二人とも何処にもいないから、心配したんだよ」
「焦らせんなよーびっくりしたぜ」
「シリウス、君ね…」
「で、でも…二人ともなんともないみたいで、良かった」
心配してくれているリーマスと、全く悪びれていないシリウス、そんなシリウスに怒りで目を吊り上げたジェームズ、それからシルヴィ達に怪我がないと知って、ほっと笑うピーター。
私達が良く知る彼等の姿に、私とリリーは互いに顔を見合わせ、何を言うでもなくふふふっと笑い合った。
――ああ、帰って来たんだな…。
四人の姿を見て、私もリリーもひどく安堵したのだ。
『(やっぱり、この四人はこうでなくっちゃね)』
「シルヴィ?」
『ん?』
遠くから四人を眺めていたら、ジェームズが不思議そうな顔をしていて、意味もなくシルヴィはジェームズに向かって満面の笑みを浮かべた。
滅多に見れない輝かしい彼女の笑顔に、ジェームズの心臓はどくんッと大きく跳ねた。それを見逃さないリリー。
「メ〜ガ〜ネぇ!」
ハリーの事もあって、この日から、リリーのジェームズに対する目の敵ぶりに拍車がかかったのは――言うまでもない。
二人が未来で垣間見た平和が、実現するかどうかは――…今を生きる彼女達の努力次第。
時を越えて(完)
あとがき→
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