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ここは渋谷サイキックリサーチのオフィスである。


――こんにちは。あたし、谷山麻衣ピッチピッチの花の女子高校生です!

ただ今、あたしはアルバイト中で、カフェの様なこのおしゃれ空間でくつろいでおります。

ここでの仕事はご来店されたお客様にお茶を出したり、ここの責任者である渋谷一也こと、ナルにお茶を出したりするだけで、依頼がない時は暇なのである。

依頼が入ったら内容によって何日間かかけて調査するんだけど…ホントそれ以外は仕事と言う仕事がなかったりする。


「あら?今日は瑞希はいないの?」

「確かに見当たらねーな」

「あー…うん」

「今回の調査は瑞希は、来ないんですの?」


本日早朝から、私達は調査の為に集まった。集合したのは、綾子とぼーさん、真砂子にジョンさんが協力してくれるメンバーだ。


「なんか山田家に来た依頼とこっちの調査がかぶっちゃって、来れないって言ってた」



――葉山瑞希先輩。

最近知ったんだけど、瑞希先輩は有名な霊能者で結界を扱う結界師らしい。瑞希先輩は自分の事はあんまり話さないから、それも詳しくは知らないけれど。

でも、あたしにとっては素敵で大好きな先輩! 真砂子の方が瑞希先輩と親しそうでたまに嫉妬したりする。


「ってことは…今回は霊視出来るのは真砂子ちゃんだけかー」

「…何か不満がおありですの?」

「えっ、いやっそーいう意味で言ったんじゃないからね?」

「……そーいう意味とはどういう意味ですの?」

「まぁまぁ、言葉のアヤでっしゃろ」


ボソりと呟いたぼーさんに、真砂子はキッと眼を吊り上げて、詰め寄る。不穏な空気にジョンが二人を宥めた。

あー…そんな言い方するからだよ…。思わずあたしは苦笑した。





皆が集合した所で、あたしはナルを呼びに行き、そして全員で目的地へと向かう。調査に必要な機材は真砂子達が来る前に車に積んでいる。


「今回はS県でしょ?これから長時間車に乗ったままなのよね…あー絶対腰凝るわよコレ」

「歳でございましょ」

「なっ、アンタねぇ〜…」


綾子は、ぶつぶつと言いながらも溜息を吐くだけに留めた。


「今回は車で行った方が都合がいい。車は二台で行くから、麻衣とジョンはこっちに、松崎さんと原さんはぼーさんが運転する車に乗ってくれ。 それから、松崎さんと原さんは調査の詳細はぼーさんから聞いてくれ。麻衣とジョンには僕から話す」

「分かったわ」

「おう」

「はいです」


各々返事をし、真砂子だけは不満があるのか名残惜しそうにナルを見つめて、後ろの車に乗った。

ナルめ…五月蠅い輩はぼーさんに押し付けたな。魂胆が見え見えだ!だけど、ナルと同じ車は…ちょっと嬉しい。


「谷山さん」


あたしも車に乗り込もうとしたら、背後からリンさんに声をかけられた。――珍しい…リンさんから声をかけてくれるなんて、いつも挨拶だけしか口にしないのに。


「は、はい…何ですか?」

「……瑞希さん…どんな依頼かあなたに話したりしてませんか?」

「えっ」

「いつ終わるのかとか気になったので」


本人に聞けよ!って突っ込みたいけど、相手はリンさんだ、抑えろ自分。


――リンさんってひょっとして瑞希先輩の事を……。

い〜つっも、普段仏頂面なリンさんが、瑞希先輩の事には興味を示してるし、邪な想像が頭の中でもたげて。自然とニヤけそうになるのを堪えた。


「いや、瑞希先輩…自分の事はあんまり教えてくれないから、聞いてないんですよ」

「そうですか…。谷山さんにも話してないのでしたら、誰も知らないでしょうね」


リンさんは自嘲気味に笑った。


「い、いや…えっ、えっとー言うほど長くはかからない依頼だったんじゃないですかっ!? ひょっこりこっちの調査に合流してくれるかもしれませんよ!」


慌てて言葉を付けたしたけど、リンさんは普段では考えられないくらい儚く微笑んだ。――リンさんの笑顔は貴重だ。

確かに、依頼内容は顧客のプライバシーに関わるから決して口には出さない瑞希先輩だけど、いつもは何処に行くから〜とか、どれ位で帰るから〜とか言ってくれるのに……今回は教えてくれなかった。

リンさんの様子じゃ〜ナルにも教えてないんだろうなー…。運転席に乗り込もうとしているリンさんの背中は、心なしか寂しげに見えた。







 □■□■□■□ 




「今から行くS県には有名なトンネルがある。 そのトンネルの入り口に車を止め、三回クラクションを鳴らしトンネルをくぐると女性の幽霊が出るらしい」


車に乗り込み、走りだした所でナルが今回の調査について説明を始めた。


「それって都市伝説なんじゃないの?」

「都市伝説ですか?」


どんな人でも、一回は聞いたことがあるホラー話の看板と言ってもいい話。


「うん。 そのトンネルの話は作った話でね、日本人なら誰でも知っていて不思議じゃない有名な話なの」

「へぇ〜そうなんどすか」

「……その話が今回行くトンネルだ。実際に都市伝説のような事が次々に起こっている、真意は分からないが。―――その噂を耳にした今回依頼してきた“田中悟”さんら含め四人が、そのトンネルで三回クラクションを鳴らしトンネルに入るという肝試しを行い、その際に“北山亮太”さんがトンネルの中に入った所で様子が豹変し、車から飛び降り逃走。 それを危険だと感じた三人で、トンネル内を追ったが、亮太さんの姿は無かった。 警察にも通報したそうだが、二ヶ月経った現在でも行方は分かっていない」


「な、なんか…」


実際に人が死んでるかもしれない所に今向かっているなんて…あたしはゾッとした。


「それでその“亮太”さんって方を探したらいいのでおますか?」

「いや…これにはまだ続きがある」


書類を読み上げていたナルは顔を上げ、ルームミラー越しにナルと視線が合う。


「な、に…?」

「残った三人の内、一人は“中山葉子”と言う女性で事件の後トンネルから飛び降り自殺した……と、そしてもう一人の男性“中山一樹”さんが問題のトンネルでバイクで壁に衝突し死亡。………今回は…除霊が目的だ。 何故二人が問題のトンネルで死ぬ事になったのか、関連性があるのか、あるなら解決をして欲しい。それが依頼人である“田中悟”さんからの依頼内容だ」


もう人がそこで亡くなっているかもしれないなんて…怖すぎる。 あたしだって一緒に行った友達が次々に亡くなったら、なりふり構わず怪しい心霊調査団にだって縋っちゃうよ。

あたし今回どうなるんだろう。怖いよー瑞希せんぱ〜い。


「では…まだ霊が関わってるか分かっておまへんのですか?」

「ああ、それもまず確認する。 他にも交通事故で子供が亡くなったり交通事故が多い。霊がいる可能性は高いと見ていいだろう。麻衣、聞いているのか?」


ナルは眉に皺を寄せてあたしに注意してきた。


「き、聞いてるよっ!ただ、ちょっと怖いなーなんて…あはっ」


ナルの絶対零度の冷たい視線にたじろぐ。――怖いんだから仕方ないでしょっ!


何回、現場を経験しているのだとナルは軽く溜息を吐き、それに麻衣はムッとし、ジョンは苦笑した。

この空気の中、長時間過ごすのか……そう思ったのはジョンか、麻衣か――はたまたリンさんか。

とにかく微妙な空気のままドライブです。








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