キス!キス!キス! [4/4]
悪霊連載:番外編
※未来設定(夢主大学生)
※リンと付き合ってます。
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自由な校風だった高校にいた私だけれど。生徒会に入っていた為、高校時代は化粧というものをしたことがなかった。していたのはスキンケアくらいで。
リンさんとお付き合いをするようになってから、大学に入学すると同時に化粧を始めた。化粧について詳しくなかったので、そこらへんは綾子さんに教えてもらったのも懐かしい記憶だ。
今では自分の肌に合った化粧品メーカーを見付け、新作が出れば試してみたり、季節によってアイシャドウを変えてみたり。我ながら女の子してると思う。
「?甘い匂いがしますね」
化粧を覚えたのは恋人がきっかけだったけど。
もともとお洒落をするのは好きだったから――…自分がいい意味で変わっていくのは楽しかった。
自分が好きなメイクと自分に合うメイクは違うのだと気付くにも時間がかかり大変だったけど楽しくて。女の子で良かったなって思える瞬間だった。
『――?』
自分がこんなにも変われるなんて、過去の私も明良さんもびっくりしているでしょうね、と苦笑を一つ。
不意に後ろで聞こえた声に、振り返った。
『甘い匂いですか?』
そう言われて鼻から空気を吸い込んだけれど、一向に甘い匂いなど感じなくて。
リンさんの気のせいでは――…と返すよりも早くリンが瑞希に言いづらそうな表情で顔を左右に動かした。
「瑞希さんから…甘い匂いがしたので」
『えっ私からですか』
てっきり、近くに甘いお菓子でも出しているお店があるのかとばかり。周囲を確認する前に否定された為、びっくりした。ぱちぱちと瞬き。
『…香水とかはつけてないんですが』
職業?柄…と言いますか。
いつ緊迫した場面になるか分からないし忍ばないといけなくなるかもしれないと考えると、匂いが付くものは普段からあまり付けない様にしているのだけど……あっ
『綾子さんから頂いたリップからもです』
異性から、しかもリンさんに気付かれるとは思わず。指摘されて途端に羞恥心。居心地が悪く感じそわそわとした。
大人で場数を踏んでいる綾子さんなら、きっと恋人を翻弄させるなんて容易いのだろうけど。私にはまだまだレベルが高くて、心の中で綾子さんに意味もなく謝った。
「なるほど」と微笑むリンさんを、彼よりも先に上っていた階段二つ上から見つめる。
『(女は度胸よね)』
今日は式神を誰も連れていなかったから。
いつも自分より先に物事を見据えて余裕がある恋人を一泡吹かせたかったから。
そうやって言い訳ばかり並べてみるとより子供な自分が浮き彫りになって踏ん切りがつかなかったのだと。瑞希は数分後に顔を真っ赤にして言い訳をするのだが、今の彼女は知り由もない。
「、ぇ」
『リンさん』
手すりに手を添え身体を支えて、彼の頬をそっと撫でた。
目を丸くさせているリンさんに自然を笑みが零れる。リンさんが表情を崩すのは貴重で、いつもその表情を変えているのが私だと思うと嬉しくて。
手を添えている頬の反対に顔を寄せて――…
『なーんちゃって』
キスをしようとして、途中で恥ずかしくなって止めた。
私達は職場に向かっている最中だったのだ。出勤時間はまだまだ余裕があるのに、急ぎましょうなんて言って誤魔化す私に、斜め後ろからふっと息を零す音が聞こえた。
ドキドキさせるつもりが、自分がしかけた行為にドキドキしちゃうとは。
「瑞希さん」
少し反省して歩みを再開させようとした彼女の右手を、体勢を崩さないように気を付けながら、リンは瑞希を物理的に振り向かせた。
小柄な彼女を、長身のリンが上から覆いかぶさるのは糸もたやすく、
「誘惑するあなたがいけない」と。
耳に吹きかけて――タコみたいに瞬時に顔を赤くしたかわいい恋人の唇をくすりと笑って塞いだ。
キス!キス!キス!(リンさんには敵わないです)
(私も瑞希さんには敵いません)
(…ではお相子ですね)
(えぇお相子です)
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