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「魔王になったこと後悔しないで下さい」


不自然に目を泳がせたサクラに笑いながらコンラッドは――膝をついていた態勢から立ち上がって、中庭を見るよう促す。


「ユーリが魔王にならなかったら。サクラが眞魔国を訪れなかったら――…彼女たちは助けられなかったんだから」

『…ぇ』

「ユーリ、サクラっ!」

「ニコラ!それに…シャスさんにジルタやノリカさんまで!」


横に並ぶように立っておったのは、魔笛探しの旅で出会った人たち。

ニコラはお腹をさすりながら、シャスにノリカとジルタは嬉しそうに手を繋いでいて、三人とも笑顔が輝いていた。


「失礼しました。陛下、姫様……今までの御無礼を御許し下さい」


改まって、だけど科白に似合わずキラキラの笑顔でニコラに頭を下げられる。


「そ、そんな、畏まらないでよ」

『ノリカ達も頭を上げてくれ』

「ふふふ、でもホントなのね! ユーリが魔王陛下でサクラが漆黒のお姫様だなんて!」

『まぁ…』

「おれたち…庶民派だからなー」



「あー!」


ニコラのお日様のような笑みに頬に朱みが差すユーリ。

そこへ和やかな雰囲気をぶち壊す甲高い声が、聞こえて――ユーリは思わずビクリと肩をビクつかせた。――が…乱入してきたのは彼の婚約者ヴォルフラムではなくオリーヴであった。


『ゲッ』

「オリーヴ…」


ユーリと口元を引き攣らせながら顔を見合わせる。だってな…。


「あんたねッ!性懲りもなくサクラ様の前に現れてッ! 直ちにサクラ様の前から消えなさいよ!」

「まあ!あなたもいたのね! そう言えば…ずっとサクラのこと様付で呼んでたわね…サクラがお姫様だったからなのねっ」

『う、うぬ』

「は、あはは…」


オリーヴとニコラは仲が悪いのだった…。 逃避行を繰り広げていた時は、もっと酷かったなーなんてユーリと小声で話して、乾いた笑みを零した。

そんな事を知らぬノリカとコンラッドは目を丸くしていて、少し笑えた。

空気が読めぬニコラは目を瞬かせて、オリーヴに笑顔を見せる。 またその笑みが、オリーヴの怒りを加速させるのだった。


「また、サクラ様を呼び捨てに!?―――あたしが、城から…いいえこの世から追い出してやるッ!」

『――!?』

「わー!待った待ったぁぁー!」


――呑気に構えている暇などなかったー!

オリーヴがもの凄い形相で剣に手を当てながら、こっちに走ってニコラをロックオンしておるぅー!


「わー、ちょっとコンラッド!」

『のわー!止まれ止まるのだー』

「――なんですか?」

『なんですかっじゃないわっ!』

「そうだよッオリーヴ止めて」


殺気ダダ漏れなオリーヴを見て、半ばパニックになるユーリとサクラ。

助けを求めたのに、笑っておるコンラッドに二人で仲良く叫ぶ。


「俺には…じゃれているようにしか見えないけど」

「ぇ?」

『――なに?』


「覚悟ォォォー!!」

「きゃあっ」


愉し気な彼の言葉にユーリと共に、目を前へと向けると――殺気をより濃くしてオリーヴがニコラを城外に追い返そうとしていて、ニコラはそんな彼女から楽しそうに逃げており……何もしらぬ者から見れば追い掛けっこしておるように見えなくもない。

文字通り追い掛けっこ…。片方は消そうと目論んでおるのに、片方は何も判っておらぬのか無垢な笑顔で。


「ニコラって…」

『ある意味、つわものだな』


先程まで落ち込んでいた地球組二人は――…オリーヴと追い掛けられているニコラを見て、笑い合った。







(こんな日常も善いものだな)
(だが…オリーヴ)
(ニコラは妊婦なのだ…やめてやれ)
(――!サクラ様がそう仰るならば)



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