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 第六話【愛の逃避行!?】





砂漠にある都市は大体が石で出来た建物だ。

日中はキツイ日差しや砂ぼこりから、夜は寒さや砂嵐から身を守るための石造りの建物。


「キいてんのかい?」


さっきまでは暑くて気が滅入りそうだったが、この建物の中はひんやり冷たくて気持ちがいい。断じて現実逃避している訳ではない!誠に涼しいのだ…。

私の左側から下品な笑いをした兵に掴まれている手が痛くて――…思わず、こうなった原因を遡る。





コンラッドにヴォルフラムを託し、先にスヴェレラを目指す我ら一同がたどり着いた街では、街を守る様に数人のガラの悪い兵士達が見張っていた。

異様な空気の中、宿を求めて町を練り歩くが、所々から不躾な視線を身に刺さり――…そして何でか、案内してくれた兵の男性達に疑いをかけられ、役人に突き出されそうになったのだ。そして今に至る。


「キけよっ!ソしてそっくりジゃねえか! この手配書によると、背は高く髪が灰色の魔族の男と、少年を装った人間の女。 この者達、駆け落ち者につき、捕らえた者には金五万ペソ」

「ペソ!?」

「駆け落ち者だと!?私がか?私と……これがか!?」

『ぷっ、笑える衝撃的事実だな』


――なるほど。

私達の中に魔族がいるとコイツ等は思っていて、しかも、ユーリとグウェンダルがお尋ね者のカップルに似ておる、と。 段々と状況が読めてきた。だから、私達は捕まったのか。

……しかし、似ておると見せつけられた手配書は、子供が描いたラクガキみたいで、似ている似ていない以前に、顔の認識が出来ぬと思うのだが…。

改めてまじまじ見る。……ルキアの絵の方が上手いぞ!

そんな事を考えていたら、右側から恨めしい目線を貰った。――いわずもがなグウェンダルである。



「これとはなんだよ、コレとはぁ! じゃなくてっ、駆け落ち者って何?ひょっとして新しい丼物のメニュー!? それとも親に結婚反対されて、手に手をとって逃げましょうってラブあんど逃避行のこと!? そんなバカな! グウェンとおれが!? 第一おれたち……男同士じゃん!」


衝撃から戻ってきたユーリのトルコ行進曲が暗いこの一室に奏でられた。因みに、ユーリは兵士の一人に捕まっておる。


『おぉー!キレがあるな』

「……少しは緊張感を持って下さいッ!!」


きっと母親ゆずりだろうトルコ行進曲に感動していたら、オリーヴから叱られた。――だってな…、心の中で言い訳をしてみる。

ユーリが名付けたイクラの軍艦巻き、もとい…愉快な頭をした兵士達がいっせいに、オリーヴから叱られる私に目をくれた。


「なによっ!」

『?』


オリーヴが前に立ちふさがり、不躾な男の視線から守ってくれる。


「少年のような女のはずンだけども、こっちの可愛い面したヤツは男だろ! 乳がねえからな」

「な、さわるなっ!」


男はユーリの胸板を弄り、そしてまた視線を私に戻す。


「とするとー、お前がこの手配書の女なンだろ」

『…は?私か?私の事を言っておるのか?』


予想外な展開である。ここで愛の逃避行を欠航するのはユーリではないのか?

連中はサクラとグウェンダルを交互に眺め、ニヤニヤと下品に笑う。


「まあ、こんだけ顔が可愛いンだ、魔族の男が手をつけるのも分かるってもんさ」

『貴様っ』

「あんたたちねっ!いい加減にしなさいよっ!!」

「そうそう、それ、おれたちじゃねーって!」

「坊やは、そっちのピンク髪の魔族の女とデキてンだろ? 駆け落ち者が二組、おれたちゃーついてンな」


私もユーリもオリーヴも、話を聞かぬ連中に怒りが増してゆく。


「ふざけるな! その人相書きのどこが似ているというんだ!」

「そうだー!」


グウェンダルも頭にキたのか怒声を上げる。それにユーリもあやかり、自分を羽交い絞めしている男に向かって叫んでいる。


「見ろ! 駆け落ち者の印があるぞ。 隣国ジャ婚姻に関する咎人は、手の甲に焼き印を押されるからな。 おまえら全員そっチから逃げてキたんだろ。 これで言い逃れでキねーぞ」

「待てよそれはシーワールドのスタンプだって! ね、ね?サクラっ! ほらワンデイフリーパスって書いてあるだろ、読めるだろ!?」


話を聞かぬ男は、ユーリの右腕に注目。なんでも隣の国ではそんな規則があるという。だが、それは一日限り有効なフリーパスだ。激しく弁明したいっ!

ユーリに助け求められて、そうだと言わんばかりに頭を激しく縦に振る。…だけど連中は聞いてなどいなかった。


「さあ、こイつの首へシ折られたくなけリゃ、エモノを置イて互イの腕ニこれを填めな」


私とグウェンダルに、一つの鎖をよこしたのだ。 オリーヴにも別の鎖を投げユーリと繋がる様に指示が出される。



一方、グウェンダルは逃げ出す隙を逃すまいと…緊張の糸を張ったままその鎖を手に取った。

そして……サクラの左手に填めようとしていたので、『右手でよい』と伝える。

もしもの時に軍人の彼の足手まといにはなりたくない。 グウェンダルは右利きだ、私が左に手錠をしたら彼が右に填める事となり、動きづらくなるであろうと思って。

重くるしい空気の中…ガチャンと金属特有の重い音だけが響く。

手錠なんて生易しい物ではなく、監禁目的の様な動けないくらいの重い手枷だった。一気に左側に重力を感じる。

本来ならこれを付ける前に逃げ出したかったのだが、頭が軽そうでも彼らには隙がない。



どうしようか。

――いよいよヤバくなった。


『……青龍…』

《…判かっている。我があっちに動く》


ボソりと名を呼べば青龍は答えてくれた。指示をしなくても彼らは私の考えが分かってる。

隙はなければ作ればいい。後はタイミングだ。

傍にいたグウェンダルには私の呟きが聞こえたらしい、視線がかち合う。それから自然にオリーヴに目配せして頷く。

オリーヴが…ユーリの左手に、ゆっくりと手錠する。

そしてまた“ガチャン”と音が響く。その音を耳にした途端、連中は気を緩める。彼らが次の指示を与える前に――…



――未だっ!!

奴等が油断した瞬間を見逃さず、近くにいた男の腹に蹴りを決める。


「ぐっ!」


私に続いて、グウェンダルが、一人の男を蹴りで気絶させた。

同じく、意外にもユーリが羽交い絞めにしていたヤツに頭突きをかましたので、その隙を逃さずオリーヴが手刀をしていた。

それらの情報を視界で得ながら、尚も残りの男達をグウェンダルと共に倒していく。



ほんの数秒の出来事。



結果、ユーリを助けようと画策していた青龍が出る事なく終わった。


「走れっ!」


グウェンダルのその声に一斉に出口に向かう。

走りながら、心拍数が上昇しているのが分かった。耳の裏でバクバク音がしておる故。走っているからではない、一連の興奮から。

外に出た途端、肌で感じたぬるい風とキツい日差し。

まだ完全に逃れた訳ではないのに、開放感を感じた、自由だと……。否、訂正、今この瞬間まで金属の音が聞こえるまでそう思えたけれど……我々には手錠がされていたのであった。忘れておったっ!!



こんな状況なのに笑みがこぼれる。

言葉がなくとも眼だけで連携が取れた。その出来事が嬉しい。


――嗚呼…彼等が己の仲間だと感じる――…。

心が信頼で繋がっておるから出来た動き。心が歓喜に震える。




ここに来て良かったと――…改めて痛感した。






(まさか、コンラッド…)
(あの時スタンプ見て、不機嫌になっておったのは……)




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