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 【出会いと再会】




突然だが、私は現在弟と二人暮らしである。

母は弟を産んですぐに父と共に事故で亡くなり、祖父は私達に立派な日本家屋を残し数年前に亡くなった。

一応、彼等が残してくれた財産もあるが…これからの事を考えるとあまり使いたくはないので、日々アルバイトをし家計を支えておるのが現状。

夏休みに入った今は稼ぎ時なのである!

だが、今年五歳になる弟の結城は構ってほしいらしく拗ねてしまった。

考えると――……生まれてすぐに祖父も亡くなり…この子には頼る存在が私しかおらぬ。 結城は、まだ親に甘えたい年頃だ。

きっと家族で旅行する友達などを見て羨ましかったのだろう。兄弟などが小学生以上の年齢だと、夏休みの間は、幼稚園を休ませてでも家族旅行をする家庭が多い。まだまだ先のお盆の時期などは特に旅行したり、帰省する友達が多いのだろう。

数日前から、結城はほっぺを膨らませてチラチラと抗議しておる。そんな仕草も可愛いが。


『結城、では何処にゆきたい? 明日ならゆっくり遊べるぞ!今度の日曜日も何処かに行こう、お友達に自慢出来るくらいお出かけしような?』


そう提案すると結城はたちまちキラキラ目を輝かせた。


「うんっ!それがし、すいぞくかんにいきたーいでござるっ!」


――うむ、ツッコミ所満載であろう。

私の口調のせいか…結城はサムライに憧れて、いつの間にかこのような喋り方に育ってしまった。

自分も似たようなものなので、注意も出来ぬ。これが原因で苛められたりせねばよいが……姉さん、それが心配。


『よしっ、では明日は水族館にゆこうっ!お弁当も作ろうかー何が食べたい?』

「わーい。 んとねーハンバーグっ!あねうえのハンバーグが食べたいでござるっ」


ハンバーグかー大丈夫かな?夏だけど…。うぬ……工夫して持ち運ぼう。


『分かった、楽しみにしておけ』

「うん!」







 □■□■□■□




「あねうえ〜はやくぅはやくっ」

『そう焦らずともお魚は逃げぬぞ』


暑い中、来たかいがあった。はしゃぐ弟を見るとそう思う。

上も水槽で出来たトンネルを歩く。水の中にいるみたいで私もテンションがあがる。


『綺麗だな』


ゆったりゆったり、水の音に合わせて時も進む。

思い出すのはあの出来事。あれから一か月ほど経ったが…あれは夢だったのではないかと今になって思う。

青龍達もいるのでそうではないと判っておるが、そう思わないと何故だか喪失感なる物を感じるのだ。

――そう、あれは夢であったのだ。


「あねうえっ!アレはなんぞ?ひらひらしてるでござる」

『んぬ?あれはエイだ』

「へぇ〜おっきいでござるなー」

『ふっ、そうだな』


興奮している弟の頭を撫で、先に促す。結城はまだ、きゃっきゃっ言っておる。

やはり弟は可愛いと微笑みをこぼし、右にある水槽を見ると――…、



――ん?

見知った少年と、同い年くらいの男の子が視界に映った。

声をかけるべきか、そのまますぎるか…悩みどころだ。彼一人だったら気兼ねなく声をかけれるのだが。

視線を感じたのか隣の男の子が振り返り、目と目がかち合った。


「…あれ、君…」

『貴様は…村田健だったな』


――そう、思い出した!

中学の頃、主席を目指すには彼という名の壁が存在して、大いに苦戦したのである。云わば好敵手なのだ。


『相変わらず余裕そうな顔をしおって』

「はは、土方さんは相変わらず面白いね」

『なっ、なに、面白いだとっ!侮辱しておるのかっ!』


右の拳をわなわなと握りしめる。――っと、ここでユーリがサクラに気づいた。


「あれーサクラ?」

『あー…貴様は…渋谷有利原宿不利だったな!中学卒業ぶり?』

「うん。…いや、最近会っただろっ!って、原宿不利は余計だっ!」

『なに、最近会ったか?すまぬ記憶にない。…夢では会ったがな、そうアレは夢であったのだ!』


困惑するユーリを前に拳を握りしめたまま力説する。


「ゆ、夢って…」


ユーリの両肩に手を置き、あれは夢だったのだと諭す。


『現実を見ろ、ユーリっ!まっことエアコンが存在するこの世は素晴らしい!』


一人でうむうむ頷く。ちなみにユーリはポカーンな状態だ。


「え、なに? 君達…同じ夢でも見たの?」

「…」

『…』

「いやー…あはは」

『そのようなものだな』

「あねうえ?っ、あねうえー!」


勝手にそう完結させていると後ろから、結城が突撃して…『ぬをっ!』……なんとも可愛げのない驚き声を上げてしまった。


「あねうえ、こやつらは…一体」

「この子…サクラの弟?」

『うむ、可愛いであろう』

「可愛いね」

『そうであろう!ほれ、結城、自己紹介をせぬか』

「…それがしは、土方ゆうきでござる」

「…」

「…流石土方さんの弟!面白い喋り方だね」

『あー直させたいのだがな…こやつが侍好きで……』


時代劇好きのユーリと気が合うのだろう、もう既に打ち解けたみたい。


「あねうえっ!あねうえの、こいなかはどちらでござるか?それがしはユーリだったら、あにうえにしてもいいでござる!」

「え?えぇぇぇ」

『な、なに?』


だいぶ話した所で、弟からの爆弾発言に目を剥く。


「なんで僕だとダメなんだい?」


唯一この妙な空気が見えぬのか、困惑しておる私達を尻目に村田が尋ねた。


「それはむらたどのが、あねうえのこうてきしゅ、だからでござるっ!」

「え〜っと、ライバル?」

『あーアレだアレ。テストで何度も打ち負かされていたからな…』


――苦い思い出だ。


『結城、今は学校が違うから…好敵手ではないのだ』

「ほふぇ〜そうなのでござるか〜」

「それになーサクラにはもう将来を誓った人がいるしな」


驚きから復活したユーリがしたり顔で語る。


「え、なになに?土方さん恋人でもいるの?」

「!!しょ、うらいを…ちかった……」

『い、いや…あやつは……』

「!!っ!あねうえっ、そ…それがしは、あねうえがいなくなるのはイヤでござる…」

『…当り前であろう!結城を置いて何処かに行ったりはせぬぞ』

「うぅぅぅあねうえ〜」


膝にしがみつく結城を抱き上げ、背中を撫でる。


『あーなんかすまぬ』

「いやっこっちの方こそゴメン!」

『いや善いんだ、結城は甘えん坊だからな。 いつもこうなのだ。――結城、早く泣き止まぬならイルカは見れぬぞ?』


“イルカ”のフレーズで結城はぴたりと泣き止んだ。


「あ、おれたちもこれからイルカショー見るんだ。 一緒に行こう、いいよなっ村田?」

「うん、いいよー華がある方が嬉しいしね」

『ありがとう、ほら結城…お兄さん達も一緒に見てくれるって』

「ぐずっ、ホントー?」

「うん、ほら行こう?」


ユーリは結城に手を差し出して、弟も手に取った。


『あーでは先に行っといてくれ』


――私はお手洗いに行きたい。


結城を村田達に任せて女子トイレに向かう。そこでお手洗いに行かなければ良かったのか――……と後に後悔する事になる。

ふと己の手を見つめる、先月にはもうはずしてしまったが両手には確かに包帯が巻いてあった。 変わった事といえば、右手に一日で消える入場者のスタンプが押されているぐらいだ。


――はっ!いかんいかん、感傷的になるところであった。

気を取り直して手を洗う――…『ぬおっ!?』――洗面台から渦が…渦っ!?



『っ!こ、これはっ!!』




____い き な り スーターツーアーぁぁぁぁぁー!!!!!








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