『ぬぅぅぅぅわあああ!!!近い!近いわっ!!バカ者っ!? ちょっ!』
コンラッドのキラキラ輝く瞳に見とれていた私は我に返って、コンラッドの胸を両手で押し返す。――が、腰にコンラッドの手があるので、大して離れぬ。
『(い、いつの間に…)』
恥ずかしい!見とれていた事実が、恥ずかしい!!
「サクラ、約束ですよ」
コンラッドはサクラの下唇を左から右へと撫でた。
そしてサクラの左耳に近づき――…
「俺にくれるんですよね?」
聞こえるか聞こえないかの声量で囁く様に呟き、軽く息を吹きかけた。
――びくっ
危険だ!本能が中から叫んでおる。危険だ!逃げろっ!!と。
だが私は動けぬかった。言われた言葉を考える余裕もなく、だけれど何をされるか理解した瞬間頭に映像が浮かぶ。
『しっかりしろっ!!!バカたれが!! 貴様のやるべき事をさっさとこなして来い!―――……一曲…私と踊る約束をしていたであろう? まだコンラッドと踊っていないぞ?私は』
『なんだその顔は!? 貴様もこの前私にしたであろうがっ!!!』
『そ、それに、コンラッドがこの前言ってた……場所にもしてやらんでもないぞ! まぁ、そこにしてやるのは貴様がちゃんとユーリを守ったら褒美としてくれてやる』
―――思い出した。
『……』
思い出したが…どうしよう……。
冗談なのだよーなんて冗談発言にしたかったが、目の前のコンラッドが許してくれそうにない。
固まった私を見て、己が思い出したのが伝わったのだろう――…コンラッドは私の左頬を撫でながら妖しく笑った。
『(あぁ…もうダメだ!捕まってしまう……)』
そう判断して諦めた、けれどこの展開にちょっと期待している自分もいて。
コンラッドが熱く見つめながら近づいてきて、私も自然にそっと目を閉じたその時―――……
「!!」
『!?』
_____炎が肌を撫でた…。
その衝撃に思わずコンラッドに捕まろうとしたが、それよりも早く、背中に誰かに抱き留められて、頭が混乱した。そして――。
《ウェラー卿。主に何をされるおつもりで?》
上から懐かしい声がした。
『す、ざく…?』
□■□■□■□
――実に十五年ぶりの感動すべき再会なのだが…。
背後から私を抱き留め、且つコンラッドに攻撃したであろう朱雀は、現在コンラッドと睨みあい中で。私は反応に困った。
二人は睨みあったまま何も喋らず。――冷戦状態だ。
朱雀が怒っている理由が判かるだけに、私も口を開けぬ。そんな状態がしばし続いて。
ふと、ユーリはどうしたのだろうかと泉に目を向けると――…ちょうどユーリが泉から上がってくる所であった。
『コンラッド!』
「何ですか?サクラ」
コンラッドはそれはそれは甘い顔をサクラにして見してくれ、それから朱雀に意味深な視線を向けた。
《!!》
『……いや、ユーリが出て来たから…タオル。ユーリに持ってきたのであろう?持って行ってやれ』
そう教えてやると、今度は朱雀が勝ち誇った顔をコンラッドにした。
《ふっ。 それでは主、宿に帰りましょう。 夜は冷えますから、風邪を引かれても困りますし…何処ぞの虫に寄り付かれても困ります》
『うぬ、そうだな』
「!!?」
朱雀の虫が何を指すのか分からなかったサクラはそれに肯定し、コンラッドに大ダメージを与えた。
《ふふふっ、流石我らが主!》
『うぬ?』
「……」
『コンラッドも風邪ひくなよ?では、また明日な!』
私はユーリに気づかれる前に宿に向かう。
二人っきりになっても、久しぶりすぎてお互いに何と声をかけて善いのか戸惑って――暫し沈黙していた。
『――……久しぶり、だな…』
沈黙を破ったのは私で。
《えぇ…再び主に会えると思っていなかったので……意識があった時は嬉しかったです》
『そうか。 私もなー再び生まれたは善いが貴様らが側にいなくて、悲しかったぞ。 こっちに来て青龍に会った時は嬉しくて涙が出た』
《はい》
『……でもな霊力ではダメだとか言われて、朱雀や玄武、白虎に会えなくて寂しかった…』
話しながら歩いてたけれど、歩みを止めて朱雀の方に振り返る。
『また、会えて嬉しいよ……朱雀』
《っ!はい》
サクラの慈愛が満ちる微笑みに――朱雀は震えながら涙を流した。
この夜、サクラは逢いたくて逢いたくてたまらなかった半身と再会し、ユーリもまた魔剣を手にする事が出来て、二人にとって忘れられない日となったのだった――…。
((どれほど))
(主に――)
(貴様に――…)
((逢いたかった事か))
to be continued...