3-9




『ぬぅぅぅぅわあああ!!!近い!近いわっ!!バカ者っ!? ちょっ!』


コンラッドのキラキラ輝く瞳に見とれていた私は我に返って、コンラッドの胸を両手で押し返す。――が、腰にコンラッドの手があるので、大して離れぬ。


『(い、いつの間に…)』


恥ずかしい!見とれていた事実が、恥ずかしい!!


「サクラ、約束ですよ」


コンラッドはサクラの下唇を左から右へと撫でた。


そしてサクラの左耳に近づき――…


「俺にくれるんですよね?」


聞こえるか聞こえないかの声量で囁く様に呟き、軽く息を吹きかけた。


――びくっ

危険だ!本能が中から叫んでおる。危険だ!逃げろっ!!と。

だが私は動けぬかった。言われた言葉を考える余裕もなく、だけれど何をされるか理解した瞬間頭に映像が浮かぶ。





『しっかりしろっ!!!バカたれが!! 貴様のやるべき事をさっさとこなして来い!―――……一曲…私と踊る約束をしていたであろう? まだコンラッドと踊っていないぞ?私は』

『なんだその顔は!? 貴様もこの前私にしたであろうがっ!!!』

『そ、それに、コンラッドがこの前言ってた……場所にもしてやらんでもないぞ! まぁ、そこにしてやるのは貴様がちゃんとユーリを守ったら褒美としてくれてやる』






―――思い出した。


『……』


思い出したが…どうしよう……。


冗談なのだよーなんて冗談発言にしたかったが、目の前のコンラッドが許してくれそうにない。

固まった私を見て、己が思い出したのが伝わったのだろう――…コンラッドは私の左頬を撫でながら妖しく笑った。


『(あぁ…もうダメだ!捕まってしまう……)』


そう判断して諦めた、けれどこの展開にちょっと期待している自分もいて。

コンラッドが熱く見つめながら近づいてきて、私も自然にそっと目を閉じたその時―――……



「!!」

『!?』


_____炎が肌を撫でた…。


その衝撃に思わずコンラッドに捕まろうとしたが、それよりも早く、背中に誰かに抱き留められて、頭が混乱した。そして――。


《ウェラー卿。主に何をされるおつもりで?》


上から懐かしい声がした。


『す、ざく…?』






 □■□■□■□




――実に十五年ぶりの感動すべき再会なのだが…。

背後から私を抱き留め、且つコンラッドに攻撃したであろう朱雀は、現在コンラッドと睨みあい中で。私は反応に困った。

二人は睨みあったまま何も喋らず。――冷戦状態だ。

朱雀が怒っている理由が判かるだけに、私も口を開けぬ。そんな状態がしばし続いて。

ふと、ユーリはどうしたのだろうかと泉に目を向けると――…ちょうどユーリが泉から上がってくる所であった。


『コンラッド!』

「何ですか?サクラ」


コンラッドはそれはそれは甘い顔をサクラにして見してくれ、それから朱雀に意味深な視線を向けた。


《!!》

『……いや、ユーリが出て来たから…タオル。ユーリに持ってきたのであろう?持って行ってやれ』


そう教えてやると、今度は朱雀が勝ち誇った顔をコンラッドにした。


《ふっ。 それでは主、宿に帰りましょう。 夜は冷えますから、風邪を引かれても困りますし…何処ぞの虫に寄り付かれても困ります》

『うぬ、そうだな』

「!!?」


朱雀の虫が何を指すのか分からなかったサクラはそれに肯定し、コンラッドに大ダメージを与えた。


《ふふふっ、流石我らが主!》

『うぬ?』

「……」

『コンラッドも風邪ひくなよ?では、また明日な!』


私はユーリに気づかれる前に宿に向かう。

二人っきりになっても、久しぶりすぎてお互いに何と声をかけて善いのか戸惑って――暫し沈黙していた。



『――……久しぶり、だな…』


沈黙を破ったのは私で。


《えぇ…再び主に会えると思っていなかったので……意識があった時は嬉しかったです》

『そうか。 私もなー再び生まれたは善いが貴様らが側にいなくて、悲しかったぞ。 こっちに来て青龍に会った時は嬉しくて涙が出た』

《はい》

『……でもな霊力ではダメだとか言われて、朱雀や玄武、白虎に会えなくて寂しかった…』


話しながら歩いてたけれど、歩みを止めて朱雀の方に振り返る。


『また、会えて嬉しいよ……朱雀』

《っ!はい》


サクラの慈愛が満ちる微笑みに――朱雀は震えながら涙を流した。

この夜、サクラは逢いたくて逢いたくてたまらなかった半身と再会し、ユーリもまた魔剣を手にする事が出来て、二人にとって忘れられない日となったのだった――…。







((どれほど))
(主に――)
(貴様に――…)
((逢いたかった事か))



to be continued...

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