10-4



辿り着いたヒルドヤードは……大人な土地であった。

着いた時間も時間だったためもあるが――…色気を纏った女性達が外に立って、男性を店へと誘っておる光景が目の前に広がっていて、その他にも、酒場やギャンブル目的の店がガヤガヤと営業しておる…日本であれば警察が動いていそうな犯罪の臭いがプンプンする、そんな街―――…



ではなかった。



温泉地だからか、温泉をいかにも楽しみましたって感じの集団や、これから温泉につかるのって浮かれている集団がちらほら。

ありとあらゆる娯楽を詰め込んだ街って訊いておったのだが……目の前に広がる光景は…日本で見られる温泉地そのものって感じである。

もちろん異国なので、文化が違い服装も違うのだが、雰囲気がそんな感じ。親しみが湧く。想像と違ってユーリは困惑しておるが、サクラはこちらの雰囲気の方が好きだと思った。




『……うはぁ』


コンラッド、ヴォルフラムとユーリが何やら会話しておる中――…二晩もたったのに熱が下がらず、サクラはキツイままの体に鞭を打って立っていた。

自力では立っておらぬので、コンラッドの左腕を掴んで寄りかかっているのだ。

ぐわんぐわんと頭痛がして、尚且つ吐きそうなくらい体がキツイのだが…コンラッドにくっついていると、彼に魔力はないのに気分が和らぐ気がするのだ。コンラッド様々。


「大丈夫…ではなさそうですね」

『う〜ん』


コンラッドが気にしてくれて声をかけてくれるが、会話をする気力がなくコンラッドの腕に顔を埋める。

自力で歩ける、否、根性で歩くが…少し体重を預けたかった。……キツイ…ひたすらキツイ。そして怠い。


「歩けます?抱えましょうか?」

『…よい、おのれであるけるー。あ〜でも…ひっぱってってー』


体調が悪いせいか、素直に甘えるサクラにコンラッドの頬はだらしなく緩むばかり。

ここに赤い悪魔がいなくて善かった。絶対バカにされる。冷やかされる方がましだと思うくらいに、ある意味アニシナは恐ろしい。


「とにかく宿にチェックインして、早いとこ温泉であったまりたいよ」

『…うぬ、わたしも…すこしよこになりたい!であります』


不意にユーリが鳥居のような赤い門を見上げてぽか〜んと口を開けた。 つられて私とレタスも上を仰ぎ見る。

上に丸い鏡が飾ってあって、門よりもその鏡の存在感が強い。

三人で仰ぎ見ておったら――…コンラッドが説明してくれた。



「あれが歓楽卿のシンボルの魔鏡ですよ」

『…まきょー』

「まきょー?」

「魔鏡? ってことはまたしても魔族のお宝発見!? あれを引っ剥がして持って帰るの?」


――魔鏡…。

魔鏡と訊いて――…何故か脳裏に前々世で見たジュリアさんの姿が浮かんだ。何故…と思うも、怠い体では頭が正常に働いてくれぬ。

ユーリが横で驚いた声を上げたが……無理。もう宿で休ませてくれ。


「いや、あれは我々の物でなく……見てください」

『ぬおっ!?』


見てくれと言われ、コンラッドに右横から肩を抱かれて引き寄せられたので、コンラッドが指さす先を見る。


『(ちっ…ちかい)』


引き寄せられて熱とは別に、頬が朱みを差した。ぐるぐると目だけでなく、羞恥心で頭も回る。


コンラッドが指をさした先では――…

夕日の光が魔鏡に向かって来て、当然鏡なのだから反射するのかと思いきや、光は吸い込むように中に溶け込み―――…真ん中にある石畳の円内に、夕日の淡いオレンジ色が灯り、繊細な模様が浮かび上がった。


「うわぁ」

『…ほぉ』


レタスと共に幻想的な光景に目を奪われた。

なるほど…あの鏡に模様を細工して、光で模様が浮かび上がってくるのか。陽の光によって見える色も違ってくるのだろうか……違う時間帯にも見てみたいな。

目をキラキラさせて顔を紅潮させたレタスを見て、ふっと笑みを零しながら、そう思った。一瞬、己の体調の悪さも忘れた。



「あれがここの魔鏡の正体。 一見した限りではごく普通の鏡なのに、ある角度から光を当てた時だけは反射せずに素通りして複雑な模様を映し出す。 この国の神様の何かだったと思うんですが。朝は朝で反対側に別の模様が……」

「あれは匠の技によるものだ。超常な力を持つ魔族の魔鏡とは性質が異なる。――我々眞魔国の至宝、水面の魔鏡は、覗いた者の真実の姿が映るという、美しくも恐ろしい力を持ったものだ。まあ、現在は国内にはないそうだが」

『…へぇ…すいめんのまきょうね……』


聞き覚えがあるのは――…気のせいであろうか。

レタスと一緒に目をキラキラせておる赤毛の女の子――グレタは、眞魔国に来た時よりも態度が軟化しておる。

レタスとも少しは会話しているみたいで、少し安心した。 グレタの熱を下げようとした時に…誰も信じぬと発言しておったので、少々気にはなってたから。

やはり、同じ年頃のレタスの方が、グレタの心を溶かしやすいのであろう。レタスにも友が出来て、私も嬉しい。血明城には……高齢者しかおらぬしな。


「でも今回はその宝物を探しに来たわけじゃなくて、単純に温泉治療に来たんだろ? 言っとくけどおれはお宝なんか探さないからな。ゆっくり浸かって足首を丈夫にするんだから」


私だって…早く横になりたい。魔鏡探しとか…冗談。


「そう。陛下の足のリハビリに来たんだから、余計な心配はなさらなくていいんですよ」


嫌そうな言葉を口にしたユーリに苦笑したコンラッドは、私にも安心させるように手を握ってくれた。

普段だったら、その行為に頬を染めてあわあわするサクラだが、熱のせいでされるがままだった。むしろ…コンラッドの体温を感じていたい。








[ prev next ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -