これの続き ☆☆☆
ふわりと身体が浮いたような気がして、気を失っていたのだと悟る。
さわさわと感じる風に、変だと思った。
気を失う原因を思い出す前に、遊ぶように吹き抜けるそよ風を感じて、私は図書館にいたはずだと警戒心が働く。室内にいた私が、風を感じるわけがない。
バカなナルトじゃない限り、異常事態がこの身に起こっていると悟れる。もちろんサスケと同じく優秀な私はすぐに異変に気付いた。
――ふんっ、うちは一族をナメるなよ。
と誰に言うでもなく独りごちる。
瞼を閉じたまま現状を把握しようとする私の耳に、穏やかじゃないやり取りが届いたのは、意識が戻ってからすぐだった。
『………』
最初は四つの気配だけだったのだけれど。
女の子の危機に、もう一つ気配が増えて、介入しようとしたが思い留まる。
そうこうしている内に、助けに来たらしい男に助けられた女の子とはまた別の女の子の方に危機が訪れたらしい。
やり取りや彼等の呼吸音から、助っ人は手を出せないらしいと察して、側にあった石にチャクラを込めて――…
「ぶへぇッ」
助っ人の男と対峙していた敵の中年の男の汚らしい顔に向けて投げた。
続けて、ショートヘアの女の子に日本刀よりも幅の太い剣を向けていた男の方にも、チャクラを込めた小石を投げてやった。
――ふんっ、たわいもない。
警戒されてなかったからいとも簡単に動けた。
無様に転がる男から、ショートヘアの女の子を抱きかかえて、距離を取る。
『丸腰の女性二人に、武器を持ち出すとは。カスだな』
目を丸くする少女二人と、一瞬だけ目を見開いた助っ人の男の視線が自分に向けられているのを感じながら、非力な少女を襲おうとした中年の男共に軽く殺気を送る。
チラリと辺りを見渡して、砂漠のような乾いた土地を目にして、やっぱりここは自分の知らない場所だと嘆息した。
様子を窺っていたが、無様に転がる男共も、助っ人の男も、襲われそうになっていたこの少女達も、私をこの場へ連れて来た犯人ではないらしい。
なら何故私はここにいる?
四神天地書の巻物を見て、光ったと思った次の瞬間にはこれだ。あの巻物には術が施されていたのか?チャクラの類の力は感じなかったが……飛ばされたとしか考えられない。
敵の男二人と、助っ人の男の格好は民族衣装のようだ。
『(テンテンの服装に似ている……で、だ。あとの二人は…、)』
少女二人の格好は、三人とは全く違うものだ。統一性がない。
生地の感じからすると、三人の男よりも、二人の変わった格好の方が上質なもの。
恩を売るならこの子達だな――と、自分の腕の中で頬を染めるショートヘアの子を一瞥して一考した。
ふと感じる視線と覚えのあるソレを感じて眼球を動かすと、視線の先にお団子頭の女の子がいた。覚えのあるこの力は――…あの夢に出て来た火の鳥と似ているものだ。否、同じ?
「オメーら、大丈夫か?」
不意に聞こえた男の声に、我に返る。
『――で、……ここは何処だ』
思考に耽っていたのがバレないように顔には出さずに、反射的にそう口にした。
中年の無様な男二人は、逃げ去った後だ。まあ、別にどうでもいい。
左手に抱えていた名も知らない彼女を、お団子頭の側に降ろして、一息つく。
「あ、ありがとうございます」
「礼なら金の方がいいな」
お礼を言ってくれたお団子頭の女の子に向かって、間髪容れずに応えた助っ人の男性。
二人の、「は?」と、呆気に取られた声音が揃って、私の鼓膜を震わした。
「は?って…おねーちゃん達もしかして無一文?おねーちゃん方、世の中金だぜ?」
――助っ人の男性の声…美声だな。
どうやらこの男は、がめついらしい。瞬時にナルトを思い出した。ナルトはお金にがめつくはないけど、貯金が趣味のようなヤツだから。
『(コイツ…最初から、金目当てで二人を助けたんだな)』
「文なしで俺に助けられるなんて、贅沢ってもんよ」
「あんたが勝手に助けたんでしょーがッ!」
憤慨するショートヘアの子を横目に、お団子頭の子が、「少しくらいなら…」と、ポケットを確かめている。
「金のない奴は嫌いだよ。じゃあな」
「ちょっと待ってよ!ここは何処なの!?」
お金が欲しいならこの子から貰えそうなのに、謝礼がないと分かるや否や彼は早々に去っていく。
ショートヘアの子が、すかさず去る背中を追って、彼女の気配も遠ざかる。
不躾にならないようにお団子頭の方の少女を、眺める。見た感じ私と同じくらいの歳かな。
先程から感じる温かい力。
『(やっぱりこの子から感じる)』
火の鳥――シカマル曰く朱雀だっけ?
朱雀と似たような…温かい力をその身に宿してるこの子が、私をここに連れて来た本人なのか。
今まで見てたけど嘘をつけるような性格はしてないようだし、その線は消える。
私を連れて来た張本人ならば、何かしら反応があるはずで。それを隠すポーカーフェイスは、この子には無理だろう。見るからに思った事が顔に出るタイプだ。ナルトのように、ね。
そもそも私を連れてくる力量もなさそうだしなー…なら、ここは何処だ。考えるのも面倒になって来た。
とにかく!朱雀と同じ力を持っているお団子頭のこの少女といれば、知りたい答えも得れるだろう。焦る必要もないか。
――急を要する任務の予定がなくてよかった。
行方を晦ましたとなると、火影に殺される。まあただでは殺られんがな。
『…ん?』
遠ざかっていた気配が一瞬に消えたのを不思議に思って振り返れば、ショートヘアのもう一人の少女の姿がない。
巻物が赤く光った時と同じあの眩い光も見えた。で、消えたあの子。
私が巻物を通して何かしらの術をかけられていると仮定したならば、ショートヘアの子はいるべき場所へ帰ったと考えるのが妥当か。
目の前で財布の中身を凝視しているお団子頭の子も、私と同じ方法で飛ばされてきた可能性が高いってわけね。
さっき写輪眼を発動させたから、ここが幻術による異空間である説は、消えている。
しかしなー…木の葉の里から遠くへ飛ばされたと考えて……ここは何処なんだ。こんな殺風景な光景は、砂の里しか見たことがない。他里の気配もないなー。ってーか、この子からチャクラが感じられない。
『(一般人?)』
朱雀と同じ力を、その体から感じるのに?一般人?
忍びではないみたい。あきらかに鍛えられてない肉体だ。
「じゃあーん!これで――…、……って、…あれ?」
『(…おそっ。コイツ、今頃気付いたのか)』
「唯ちゃん?」
ショートヘアの名前は、“唯”と言うのか。ふむ。
ポカーンとしてアホ面を見せた彼女の手には、生まれてこの方一度もお目にかかった事がない紙幣が握られていた。――あれが金だと?
『(だからここは何処なんだ)』
この数分で何度として自問した疑問が、またも心の中に現れた。
あの子が帰ったのなら――…帰れる条件は何なのか。
唯一何かを知っていそうなこの子は、当てにならなさそうだし……ここが何処だか知っていそうな金に目が無いあの男の姿も既にない。チッ、力ずくでも問い詰めておけば良かった。
『あの子なら、光に包まれて消えたぞ』
「…ぇ、えっ。えぇぇッ」
面倒そうな予感(私はいつ帰れるのだろうか)
(今日はサスケに会える日だったのに)
(あー帰りてェ)