日も沈み、辺りを月明かりが照らし出す。数百年前ならば、美しいと称賛できるほどのこの景色も今ではすでに焦燥感を煽るだけだ。


作られた月、この世に自然の造形物など存在しない。

あらゆるものに人間の手が加えられ、元の姿で現存している植物などありはしない。大地でさえも人間の手によって、人間の使い勝手の言い様に作り替えられている。

この世に、自然は存在しない。


だからだろうか、何故か無性に自分たちが異端のように思えてくるのだ。



この作り上げられた世界で唯一、科学の力に干渉されることなく生み出されてくるのは人間。人間だけが、数百年前と変わらない姿のまま生まれ、死んでいく。









ならば、自分はなんなのだろうか。









不意に、そんなことをリベラは考える。

自分は確かに人間と同じ形をしている。だがしかし、自分に親というものは存在しない。言うなればティズモがそうなのかもしれないが、彼は自分を生み出した℃メであって、親ではない。カプセルの中から生まれ、今こうして生きている。


いや、そもそも自分は生きているのだろうか。



今日の買い物の時もそうだ。町を歩いていたら初めて見る者ばかりで心躍ったが、何故か懐かしいと思う部分もあった。


そして、薄紫色の服を手に取ったとき、何故かどうしようもなく懐かしい様な気分を自覚したと同時に、自分の中から何か大切なものが抜け落ちているような錯覚に陥ったのだ。





「なんなんだろ…これ」




分からない。この感情が。

悲しみ?苦しみ?怒り?どれも違う。わからない。


テレシオの事もリベラの心に引っかかっていた。不意に感じるテレシオからの自分を慈しむような視線。そして、悲しみに満ち溢れた死線。

あれは、なんなのだろう。作り上げられた生しか持たない自分に同情しているのだろうか。


それとも、何かほかの意味があるのだろうか。





「私は、人間……だよね?」






サムライ



そう呼ばれてきた。でも、サムライも実在した人間たちらしい。ならば、自分の人間である。そうとしか考えられない。


でも、自分には親がいない。


リベラの頭の中をぐるぐると様々な感情が渦巻く。

どうしても、誰かに肯定してほしかった。

お前は人間だと、そう認めてほしいのだ。


でも、それは叶わない。


自分は、戦いのために生まれたから。自分が人間であろうと、そうでなかろうと、オステ討伐の為に戦わねばならないという事実は変わりはしない。

だから、一人で耐える。

自分の存在理由は分かるのに、自分という存在が分からない。







「誰か、教えてよ……」





小さな少女の呟きは、偽りの月明かりに照らされて消えた。









クラメンの追憶

――――安息を願うことは許されない



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