森の中、少女が駆ける。長い黒髪を高い位置で一つにくくり、白銀に輝く蝶を模した飾りのついた髪止めで止めている。強い光を宿す、すみれ色の瞳は目の前を疾走する虎と似通った獣を捉えて離さない。



一対の黄金色の羽をその背に持つ黄金に黒の縞模様のそれは、自分を追ってくる少女の持つ覇気に脅え逃げ惑っている。

これは、快挙であった。人工的に作られたサムライ。その強さが今、証明されていた。少女の服の肩口に着いた小型カメラからその様子を見ていたティズモは思わず目を輝かせる。

成功だ。やっと証明された。奴らを、倒す事が出来るのだ。この少女がいるだけで。やっと、やっと人間の悲願が達成される。


あの獰猛な獣たちは、あろうことか園の人工林の中にオステ≠ニ名付けて一つの国家を作り上げた。動物が、進化を遂げた動物たちが住む国。否、国というにはいささか粗末なものかもしれないが、彼らが人間にもたらす脅威は計り知れないものだった。


オステ達がこの園に足を踏み入れたのは約二十余年前。確実に彼らは力をつけ、今では絶大な知恵を有している。被害も段々と深刻さを増していき、数えきれないほどの人間が殺された。




そして、ティズモという一人の科学者が作り上げた化学兵器サムライ・リベラ



今は、その実験中なのだ。彼女の力が、オステ達にどれほどの脅威となり得るのか。

猛る狂った獣さえも畏怖する覇気を放つリベラ。そして、確実に獲物を仕留めようとする現代人に見られない強靭な心。





「はぁああああ!!」




リベラの持った刀が、虎の右翼を切り裂く。おびただしいほどの鮮血が辺りに飛び散り、あまりの痛みに虎は断末魔の叫び声を上げる。

そして、右翼を切り裂いた刀身をそのまま虎の胴に突き刺す。虎の心臓を貫いた刀を抜き取ると、虎はピクリとも動かなくなった。




頬に着いた鮮血を拳でぬぐうと、不意に生臭さが鼻をつく。喉の奥までせりあがってきた物を吐き出す。

どうしようもなく、気持ち悪かった。自分の手で、生き物の肉を切り裂いているという感覚が、どうしようもなく受け入れられなかった。

だが、戦うことに躊躇いはない。それは確かだ。







ジジ…とわずかなノイズの後にティズモの声が響く。



『上出来だよリベラ』



「………」



リベラは、黙したままティズモの声に耳を傾ける。



『これで、君の実力は証明された。明日にでも君を中心とした特殊部隊を編成させて、すぐにあの忌まわしきオステ達を殲滅するんだ!!』




殲滅、その言葉にリベラの肩がピクリと震える。戦うのが、嫌いなわけじゃない。ただ、肉を切り裂く感触が好きになれないだけだ。自分でも、恐ろしいほどに矛盾している思考だとわかっているが、どうしてもこれだけは譲れない。

殲滅。別にそれは構わない。オステ達は確実に人間の脅威となり得る。このままにしておけば全人類は奴らによって滅ぼされるだろう。ならば、殲滅するほかない。


自分に、選ぶ道などない。


肉を切り裂くのが嫌だからと言って、それを避けて通るわけにはいかない。


ましてや、オステを殺したくないと言えば、自分は利用価値なしとみなされて即刻処分されてしまうだろう。





全てを奪うは場で

――――戦いの為に生み出された私にとって、戦場以外に生きる場所など在りはしないのだから。



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