プロローグ




何の変哲もない毎日。


朝起きて、学校へ行って、帰ってきて、夕ご飯食べて、風呂入って、寝る。


同じことを延々と繰り返しているような毎日。


それでも、私は満足していた。

だって、友達だっているし、楽しいし。



そう、満足していたんだ。




でも、何ででしょうか。いつもの通りに学校から帰っている途中。


カシャンと音がして足元を見ると、綺麗な鍵が一つ落ちている。どうやら蹴ってしまったらしい。


しかもなぜだろうか。この鍵、普通の鍵ではない。なんかこう、昔のお屋敷とかで使ってそうな鍵だ。あ、もちろん金持ちの。




そこで、私は思う。




これって、何かのフラグなんじゃないのか?人生楽してのほほんと暮らしたい私にとって、こんなものは迷惑極まりない。


本当に、神様は何を見ているんだか。私なんかよりも世界には刺激を求めている人がいるでしょうに。





「……拾わなきゃダメかなぁ」




拾ったら最後、きっとこの「のほほんサイクル」の生活ともおさらばだ。それは困る。





「よし、何も見てない何も見てない」






そう言って通り過ぎようとすると、慌てたような声が耳の奥に響く。






『ちょちょちょちょ!ちょっと待って!君、おかしいでしょ君!ふつう拾って持って帰るでしょ!!』




「フラグなんざへし折ってやんよ」





『男らしいっ!!じゃなくてさ!拾って!おれっちのこと拾っておくれ!』






「おれっちとかいうな不愉快極まりない」







仕方がないから喋る鍵、悠ちゃん命名ウザス君(仮)を拾ってやる。なんて優しいんだ私は。





『いや、ウザス君とかやめて下さい。ホント泣きたくなる』




「ハハハ!泣け泣け!!」





『君さっきとキャラ変わってない!?』





「気のせい気のせい。それで、次はどんなフラグをへし折ればいいの?」





『へし折らんで!へし折らないで!!君は、選ばれし者なんだよ!今巷で噂の大人気乙女ゲーム薄桜鬼の世界にご招待!!』






カシャ―――――ン!!!


思いっきり近くの電柱に鍵をぶつけてみた。






『アダダダダ!!痛い!ごっさいたい!骨折れたかもしれない!ちょっとみて!骨折れてないか見て!』




「鍵に骨も何もあるかボケェ」






そういうって悪態突いてやったらあ、それもそうかと納得していたがるのをやめやがった。ホントなんなんだこいつは。





『え、ちょっと待って!トリップだよ!?みんな大好きトリップだよ!?』




「そんな非現実的なこと信じられましぇーーん!!、私の目標は楽に生きることなんだからそんなイレギュラーな存在になるわけにはいかないのだよ!あ、ならお前喋る鍵もダメじゃねぇか。鍵と喋ってる時点でおもっくそイレギュラーだよ。お前ちょっと死んで来ない?」




『一人でマシンガントークしてとんでもない解決方法見出しちゃったよこの子!?』





「いや、そんなに褒められても困る」




『褒めてない!!というか君知らない?はくおうきってゲーム!しらない?』




「白桃ならしってるけどな。うまいよねあれ」





『そうそう、あの甘みが何とも…ってちがぁああああう!!』






「ナイスノリツッコミ〜〜ってことで今日はこの辺で」





サッと踵を返してGOTOホームしようとしたら、急に襲い来る浮遊感。


え、空飛んでね?いやでも、周りの景色は普通だぜ?



ということは、バッと下に目を向けるとぽっかりと空いた黒い穴。そう、それはさながらドでかいフライパンの様で。






「え、嘘。何この状況。ウザス死ねよマジで」



『まーまーそんなお堅いこと言わずに!楽しんでらっしゃいなお嬢さん!』




「ふざけんなよくそ鍵がぁああああああああああああ!!!」







私の絶叫もむなしく、私の体は暗い暗い穴にGO!!

というかこの状況ってありがちだよね。トリップで穴におちるとか定番すぎて笑えてくる。


どうせなら、もうちょっと斬新な方法考えろよ。



トイレに流されるとかさ。あ、こんなのどっかで見たことあるな。





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