真実と本当
「え…?」
突然のことに、どう答えていいのかわからずラピスは、間の抜けた声を漏らす。
「おい、どういうことだ」
いままで沈黙を保っていたXANXUSが口を開き、こちらに歩み寄ってくる。皆、食事のことなど忘れ食い入るように私に向ける視線。
「リング無しで、炎をともす人間なんざ見たことがねぇ」
人間
その言葉に背筋が凍る。
そう、だって私は人間じゃないもの。
ずっと昔に、人間であることを捨てて、永遠を生きる事を誓った。
でも、そんなこと明かせるはずがない。明かしても信じてもらえるわけがない。
「自分の命を核として、炎を体外に放出することは可能です」
これは、本当のこと。確か、アルコバレーノ達はこの芸当ができるはずだ。最も、命に限りがある彼らはめったな事がなければ使わないが。
命に終わりがない私には、何の関係もない。リングという小道具なしで炎が出せるとても便利な方法だった。
だから、真実≠隠して本当≠告げる。
「…食えねぇ奴だ」
「それは、お互い様でしょう」
私も、貴方の考えていることこれっぽちもわかりません。ラピスが、そういうとXANXUSはそれ以上何も追求してこなかった。
その後、ベルがしつこく訪ねてきたが、答えるわけにもいかない。答えをはぐらかしていると、スクアーロにいつまで騒いでいるんだと怒鳴られた。
これは、私の人生において三度目の安息の始まりだった。
自分でも気づかぬうちに、安息を求めてしまう。
ある種の防衛本能に近い行動をラピスは無意識のうちに取っているのだ。
ラピスは脆い。過去に受けたトラウマにより、その心に闇を宿し、それ故に生きながらえ。それと同じものにより、その心に希望を宿し、それ故に生きる意味を求める。
それは、ラピスの本質。恨みたくても恨めない。その思いが、ラピスをこの世にとどめ置いているのだから。
そして、ラピスの望むのは、とても、温かくてずっとこんな時が続くんじゃないかと錯覚してしまうような。そんな時間。
また、守りたいものが増えたと自分を嘲笑う。その時間に終わりを告げる、荒々しい風がすぐ近くに迫っているとも知らずに…
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