罪なき者に謝罪を
「お前が紅雪か?」
玉座に座る、顔のほとんどを前髪で隠した男。そして、よくよく見ればその指にはマーレリングがはめられている。
「そうですけど、何か?」
「死ね」
玉座の男がそういうと、傍らにいたゴツイ男が一歩前に出る。
「ジル様、ここは私めにお任せを」
ゴツイ男は、そのまま匣を開匣する。現れたのは、巨雨象。
しかし、ラピスはその像を一瞥して気の失せたような顔でつぶやいた。
「飽きれた。大したことないじゃない」
これじゃまだ、大人数でかかってきた雑魚たちの方がマシ。とラピスが呟くと、男は額に青筋を浮かべる。
「お前、俺のこと馬鹿にしてんだろ?」
「…だったら?」
「オルゲルト」
早くやれ、とでもいうように男はおそらくゴツイ男の名前だろう。低い声でその名を呼ぶと、ゴツイ男はハッといって頭を下げて、改めてこちらに向き直る。
でも、ラピスは動じる様子もなく呑気に構えている。
「やれ!!」
オルゲルトがそう叫ぶと、象は雨の鎮静の炎をこちらに放つ。
私は、そこから一歩も動かずに右手を前に挙げてシールドを張ると腰に手をかけた。
金色の刀を抜き放ち、そのままの勢いで象に向かって斬撃を放つ。
刀身と同じ金色の閃光を放ちながら、象に襲い掛かった斬撃はあっという間に、象の体を引き裂く。
「なっ!?」
オルゲルトは、顔をゆがめて信じられないものでも見たかのような表情をしている。
そして、玉座に座る男も黙ってそれを見ていた。
「ごめんね。貴方に罪はないけれど、貴方を救う方法が私にはわからないから」
その謝罪は、他でもない。オルゲルトの匣兵器。巨雨象に向けられたものだった。
そして、そのあとラピスは辛そうに顔をゆがめて、意を決したように口を開いた。
「テンペスタ」
その瞬間、ラピスの体を赤い炎が包み込む。ラピスが右手を上げると、それにつられて炎も右手の先にある巨雨象へ襲い掛かる。
そこからは、一瞬だった。
ラピスの放った炎が巨雨象を囲ったと思ったその瞬間、巨雨象が消え去ったのだ。
嵐の分解などというレベルではない。消える。いう言葉がふさわしかった。
オルゲルトも、玉座の男も信じられないというように目を見開いている。…玉座に座っている男は前髪で表情はうかがい知れないが、おそらく驚愕しているのは間違いないだろう。
しかし、そんな緊迫した雰囲気はあっという間に壊された。
「しししっやっぱりいた♪」
「さすがですねー象消えちゃいましたよー」
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