とある夜に
■ ■ ■
――でも、救いなどはありはしないのでしょう?
「……神威」「ああ」
一瞬、視線を交わし、2人は古びた教会の扉に手を掛けた。
塗装は剥げ、木枠にヒビの入った両開きの扉。しかし、そこに宿る微かな神聖さから来る重々しさは、けして失われてなどいない。
手を掛けた途端、そのずっしりとした重みが苦役のようにのしかかってくるのを、神威と昴流は同時に感じた。
だが、ここで引き返すわけにはいかない。
2人は揃って視線を下げる。
神威は自身の左下へ、昴流は自身の右下へ。
細身ながらも背丈は高い、そんな両者に両脇から支えられ、苦しげに息づくのは――2人の頭ひとつ分は小さい、小柄な少年の姿。
月光に照らされるその金髪が、ますますぐったりとうなだれていくのを見て、昴流が焦った顔をした。静まり返った夜の森に、引き攣った呼吸の音が響く。
「神威、ノザの意識が」
「わかってる。行くしか、ないだろう」
ぶっきらぼうに言う、その神威の横顔もまた焦りと不安に満ちていた。肩を支える少年の体からは、とっくに力が抜けきっている。弛緩した体は重く、そして熱い。
「……教会なんて、もう一生縁がないと思ってたけれど」
「大丈夫だ。俺達の正体がバレたら、殺せばいいだけのこと」
「それはだめだよ。……ノザが、悲しむ」
扉に掛けていた手を放し、昴流はそっと少年の前髪をかき分けた。
心配と不安にその瞳を曇らせて、浅い呼吸を繰り返す苦しげな面持ちへ、小さく呟く。
「……僕達2人は、どうなってもいいから……せめて、ノザだけでも」
「……ああ」
そうだな。昴流の微かな、しかし確かな悲痛のこもる声に、神威は視線を逸らしつつ同意する。
そのまま、今度は何のためらいもなく――扉に掛けた手に、ぐっと力を込めた。
途端、待っていたかのように、易々と扉が開く。
「……アレ、珍しいなあ。こんな時間に、どなたかなー?」